「O-86 空圧式ペニス責具」、「A-83 ソフトアイカフ」、「A-10 バイトギャグ」、器具の入ったパッケージには、無機質なゴム印で、名称が押されていた。
目の前に並んだ道具を、ひとつひとつ手に取って確かめた「彼」は、うん、と一言頷くと、私の目の前にかがみ、正座した私の眼をのぞき込んだ。
「それじゃ、始めようか」
「はい・・・」
喉奥を詰まらせるようにしながら、女性を演じようとしていた。
目の前に並んだ道具を、ひとつひとつ手に取って確かめた「彼」は、うん、と一言頷くと、私の目の前にかがみ、正座した私の眼をのぞき込んだ。
「それじゃ、始めようか」
「はい・・・」
喉奥を詰まらせるようにしながら、女性を演じようとしていた。
鏡の前で、メイク道具を自分の肌に当て始めると、次第に私の気持ちは「男」のそれから「女」のそれに移り変わっていくような気がした。
もちろん、私のメイク技術は、「少女」から「女」に成長する間何度も何度も繰り返し自分にメイクを施している女性にかなうはずもない。聞きかじりのセオリーと、それでも何度か繰り返しているうちに、自分の手で自分を飾る魔力は、次第に身体に染み渡っていった。
ファンデーションは、ベースメイクを行った上に、できるだけ軽く薄く乗せていく。
瞼の真ん中を、ほんの少し明るめの白いアイシャドゥで飾るのが、私のお気に入りだった。比較的長いまつげは、マスカラとビューラーの力を借りればそれなりに見られたし、筆のように穂先の長いブラシを買ってからは、チークを少しさせるようにもなった。
最後に、ウイッグがずれないように、ヘアピンでしっかりと留めると、裸の肩に髪が触れる感覚で心が沸き立つ。部屋に置かれた時計は、待ち合わせの時間の10分ほど前を指していた。
もちろん、私のメイク技術は、「少女」から「女」に成長する間何度も何度も繰り返し自分にメイクを施している女性にかなうはずもない。聞きかじりのセオリーと、それでも何度か繰り返しているうちに、自分の手で自分を飾る魔力は、次第に身体に染み渡っていった。
ファンデーションは、ベースメイクを行った上に、できるだけ軽く薄く乗せていく。
瞼の真ん中を、ほんの少し明るめの白いアイシャドゥで飾るのが、私のお気に入りだった。比較的長いまつげは、マスカラとビューラーの力を借りればそれなりに見られたし、筆のように穂先の長いブラシを買ってからは、チークを少しさせるようにもなった。
最後に、ウイッグがずれないように、ヘアピンでしっかりと留めると、裸の肩に髪が触れる感覚で心が沸き立つ。部屋に置かれた時計は、待ち合わせの時間の10分ほど前を指していた。
ほとんど日の光が届かない窓のない廊下の突き当たり、暗がりの中、鉄扉のノブに手をかけ、大きく開いてみると、部屋には大きな窓から夏の朝の日射しがしっかりと入っている。
日光がガラスから部屋に持ち込む輻射熱は、古びたエアコンの冷気を熱で染め上げるほどの強さで、緊張の中、外を歩いてきた私はすぐに全身から汗が滲みはじめた。
(まさに・・・角部屋、だな・・・)
カーテンで日射しを遮り、エアコンを強め、様々な道具を詰め込んだ鞄をソファーにおいて、辺りを見回す。
ダブルのベッドに、小さめのソファーとテーブル、L字形の部屋はワンルームマンションくらいの広さの床が確保されている。
(このくらい・・・、あれば・・・)
大きめのクローゼットに、ゆったりしたバスルーム、全く簡素で古めの家具ではあったけれど、「居心地」は悪くなかった。
ベッドサイドの時計を見ると、指定した時間まで、もう1時間を切っていた。
日光がガラスから部屋に持ち込む輻射熱は、古びたエアコンの冷気を熱で染め上げるほどの強さで、緊張の中、外を歩いてきた私はすぐに全身から汗が滲みはじめた。
(まさに・・・角部屋、だな・・・)
カーテンで日射しを遮り、エアコンを強め、様々な道具を詰め込んだ鞄をソファーにおいて、辺りを見回す。
ダブルのベッドに、小さめのソファーとテーブル、L字形の部屋はワンルームマンションくらいの広さの床が確保されている。
(このくらい・・・、あれば・・・)
大きめのクローゼットに、ゆったりしたバスルーム、全く簡素で古めの家具ではあったけれど、「居心地」は悪くなかった。
ベッドサイドの時計を見ると、指定した時間まで、もう1時間を切っていた。
「彼」の調教のために予約したホテルは、男女のためのラブホテルではなく、オフィスビルが建ち並ぶ街のビジネス客向けのホテルの一室だった。
片側3車線の広く真っ直ぐな道路の両脇に、街路樹と無機質な灰色のビルが建ち並ぶ街には、繁華街とは違った空気が満ちている。
歩道を歩く人々の大半は一人で黙々と行き先に向け、強い日射しを照り返すアスファルトの熱気を全身にまといながら歩いていた。
「道具」を詰め込んだリュックを肩にかけ直した私は、近くに日用品を売る店がないか、探していた。
片側3車線の広く真っ直ぐな道路の両脇に、街路樹と無機質な灰色のビルが建ち並ぶ街には、繁華街とは違った空気が満ちている。
歩道を歩く人々の大半は一人で黙々と行き先に向け、強い日射しを照り返すアスファルトの熱気を全身にまといながら歩いていた。
「道具」を詰め込んだリュックを肩にかけ直した私は、近くに日用品を売る店がないか、探していた。
「おやすみなさい、また、明日・・・」
全ての「準備」を終えて、最後にチャットルームを閉じてから、私は、数時間後に訪れる初めての経験を思い、眠れない夜を過ごした。
夏の日射しが、東の空から照りつけ始めるまで、あまり間がない時間だった。
全ての「準備」を終えて、最後にチャットルームを閉じてから、私は、数時間後に訪れる初めての経験を思い、眠れない夜を過ごした。
夏の日射しが、東の空から照りつけ始めるまで、あまり間がない時間だった。