「M男性である自分」のまま、SMを好む人々の中に交わっていく場所を、チャットルーム【仮面舞踏会】で初めて見つけた私だったが、サイト閉鎖と共にその場所を失い、特定の名前と人格を持ったM男性から、一人の「M男性を名乗る人」に戻ることになる。
自分も、他人の顔も見えないまま、ネット上を砂粒のように漂った日々の記憶。
自分も、他人の顔も見えないまま、ネット上を砂粒のように漂った日々の記憶。
- 顔のない関係【01】
- 顔のない関係【02】
- 顔のない関係【03】
- 顔のない関係【04】
- 顔のない関係【05】
- 顔のない関係【06】
- 顔のない関係【07】
- 顔のない関係【08】
通い慣れ、自分のハンドルネームで挨拶すれば自分であることを認識してもらえた「仮面舞踏会」がなくなった後、他のSMチャットルームでもう一度最初から関係性を構築することは容易なことではなかった。S女性は極端に少なく、満足に話しをすることも叶わず、チャットをあきらめかけた時、私は新しい「道具」を見つける。
Netmeetingを初めて使うと、「Japan」の女性に興味津々な外国人から何度も呼びかけられ、接続をOKするとすぐに質問攻めに逢う。自分が男性であることを明かすとすぐに切断されたが、数人が使っているWebcam経由の動画が案外鮮明であることに驚く。
「S女の方、お話してください」型どおりのコメントを入れると、数人の「S女性」と話しをすることができた。ネット経由で「M男性」と会話をすることに慣れてきたS女性達は、自分の指示した内容をデジタルカメラで撮影して送ることを命じはじめた。
初めてNetmeeting経由の「私」は、あるS女性から一人のM男性として認識してもらえる程度に会話を重ねる。画面の向こうに、リアルタイムでS女性が自分に何かを命じてる、という興奮にとりつかれ始める。
デジタルカメラでの「命令の実行報告」は、次第にエスカレートし始め、カメラでの送信が追いつかなくなりはじめる。ついに自分の映像をwebcamに映した私。
思った以上に鮮明な映像を映し出すwebcam。素顔のままでM男性だと不特定多数に素顔を晒すことはできず、それまで、興味を持つことすらなかった「女装」の顔を身にまとうことを選ぶ。
男性の姿のまま、女性しか使わない道具を手に入れる恥ずかしさに躊躇しつつも、一つ一つそれらを手に入れる高揚感につつまれていく私。
一人暮らしの男性が女性の下着を手に入れるために利用できる手段はまだ多くなかった。女装趣味の男性が集まることで有名なショップに初めて入り、てにできなかったいくつかの道具をそろえていく。
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