女性の装いを完成させるために必要で、かつ男性が手に入れにくいものがもう一つある。
「靴」だ。
靴、と一言でいっても、ミュールだったり、ブーツだったり、パンプスだったり、女性の靴は、「装う」といえばスーツに革靴程度しかパターンのない男性と違い、選んだ洋服それぞれと一緒に、全体をまとめていく華やかさに溢れている。
「彼」と初めて逢うことになった頃、街には真夏の日射しが毎日照りつけ、ノースリーブにシースルーのストッキング、ピンヒールのミュールを履いた女性が溢れていた。
細い、とは言えないまでも、シェーバーで翳りを取り去った自分の白い肌にストッキングを履けば、私の脚もそれなりには見せられる脚になるはず、だった。
「靴」だ。
靴、と一言でいっても、ミュールだったり、ブーツだったり、パンプスだったり、女性の靴は、「装う」といえばスーツに革靴程度しかパターンのない男性と違い、選んだ洋服それぞれと一緒に、全体をまとめていく華やかさに溢れている。
「彼」と初めて逢うことになった頃、街には真夏の日射しが毎日照りつけ、ノースリーブにシースルーのストッキング、ピンヒールのミュールを履いた女性が溢れていた。
細い、とは言えないまでも、シェーバーで翳りを取り去った自分の白い肌にストッキングを履けば、私の脚もそれなりには見せられる脚になるはず、だった。
ブラジャーや、ショーツ以上に靴を手にいれることは難しい。
90cmのヒップ、80cmをこえるアンダーバストの女性も、いないことはないけれど、26cm以上のサイズの靴を履く女性はほとんどいない。
男性はもともと爪先が尖った靴を履かないせいか、足の爪先が大きく外側に拡がっている。パンプスでもミュールでも、そもそも爪先自体が入らないことがほとんどだろう。靴は、履けなければ本当に全く何の意味も持たないものにしかならない。しかも、失敗するには高価すぎた。
バイクに乗り、近くにある靴のディスカウント店を何軒も周り、男性ものの靴を調べるふりをしながら、横目でミュールが並べられている棚に目を走らせてサイズを確認した。
「L」、「LL」、そんな表記のミュールは、いくつか見つけることができる。しかし、まるで「サンダル」にしか見えないデザインのものばかりだった。
(街で見かける女性の足の下で輝いている、綺麗なデザインのピンヒールのミュールが欲しいのに・・・)
サイズを優先すればデザインがダメ、デザインがよければとても自分の爪先には入りそうもないものばかりを眺めた。駐車場にバイクを止め、確認しては次の店へと走り、結局、どこの店でも同じことを繰り返した。
通販カタログなら、大きいサイズのミュールも見つけることはできる。しかし、既に夏が始まっていたその頃、注文しようとしてももう在庫が無かったり、入荷は数週間先になってしまうことばかりだった。
品揃えを期待して、百貨店にも出かけたけれど、結局、女性ばかりが集まる店の中で、一人、男性が女性ものの靴を買い求めるなどということができるはずも無かった。
結局は、何度も通った映画館の近くにある量販店に出かけた。駅のすぐ目の前でありながら、閉店間際の靴売り場にはほとんど客はおらず、また、場所柄、会社帰りのスーツ姿の男性がひっそりとミュールに爪先を通していても、誰も注意をとめることも無かった。
赤いストラップにラインストーンが縫いつけられたピンヒールのミュール、それは、数千円と引き替えにやっと手にした「女」になるためのチケットのように感じた。
無造作に紙袋に包まれたミュールを通勤鞄に押し込み、やっと「道具」が揃った安堵と、欲求がついに実現する昂奮とで、自然に足取りを早めながら、家に向かった。
90cmのヒップ、80cmをこえるアンダーバストの女性も、いないことはないけれど、26cm以上のサイズの靴を履く女性はほとんどいない。
男性はもともと爪先が尖った靴を履かないせいか、足の爪先が大きく外側に拡がっている。パンプスでもミュールでも、そもそも爪先自体が入らないことがほとんどだろう。靴は、履けなければ本当に全く何の意味も持たないものにしかならない。しかも、失敗するには高価すぎた。
バイクに乗り、近くにある靴のディスカウント店を何軒も周り、男性ものの靴を調べるふりをしながら、横目でミュールが並べられている棚に目を走らせてサイズを確認した。
「L」、「LL」、そんな表記のミュールは、いくつか見つけることができる。しかし、まるで「サンダル」にしか見えないデザインのものばかりだった。
(街で見かける女性の足の下で輝いている、綺麗なデザインのピンヒールのミュールが欲しいのに・・・)
サイズを優先すればデザインがダメ、デザインがよければとても自分の爪先には入りそうもないものばかりを眺めた。駐車場にバイクを止め、確認しては次の店へと走り、結局、どこの店でも同じことを繰り返した。
通販カタログなら、大きいサイズのミュールも見つけることはできる。しかし、既に夏が始まっていたその頃、注文しようとしてももう在庫が無かったり、入荷は数週間先になってしまうことばかりだった。
品揃えを期待して、百貨店にも出かけたけれど、結局、女性ばかりが集まる店の中で、一人、男性が女性ものの靴を買い求めるなどということができるはずも無かった。
結局は、何度も通った映画館の近くにある量販店に出かけた。駅のすぐ目の前でありながら、閉店間際の靴売り場にはほとんど客はおらず、また、場所柄、会社帰りのスーツ姿の男性がひっそりとミュールに爪先を通していても、誰も注意をとめることも無かった。
赤いストラップにラインストーンが縫いつけられたピンヒールのミュール、それは、数千円と引き替えにやっと手にした「女」になるためのチケットのように感じた。
無造作に紙袋に包まれたミュールを通勤鞄に押し込み、やっと「道具」が揃った安堵と、欲求がついに実現する昂奮とで、自然に足取りを早めながら、家に向かった。
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