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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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眼鏡が似合う胸板の厚い人
 ヒトの身体には「マッスルメモリー」というものがあって、一度鍛えて自分のモノになった筋肉は、一度も鍛えたことのないヒトよりも早く身体に戻るものなのだ、と聞いたことがある。

 ずっと若い頃、それなりに鍛えていた身体だったけれど、就職して運動と無縁の生活とその間に重ねた年齢は、もちろん隠すことができない。一年、また一年と身体のシェイプが次第にルーズなものになり続けるのを止めることはできないのだろうとあきらめかけていた。

 少し前「禁欲を捧げる」ことについて、何度かここにも書いたし、それが守れない自分の情けなさを今までずっと克服できずにいた。

 こんなに大切で、かけがえのない御主人様に対して、自分は奴隷だというならば何か、形に見えるものを日々捧げていなければいけないのではないか、とずっと負い目に思ってきた。

 捧げるもの、といって思いつくのは、過去に何度ネット経由で課されても実行できない「禁欲」であり、何度かSMパブのMistressに言われた「腹筋・腕立て伏せなんて、サラリーマンならいくらでも時間あるでしょ?」と言われた身体を鍛えることでもあった。

 御主人様が、「禁欲」を何かを捧げることとは思わないことは理解している。そして、そもそも「捧げる」ということ自体があまり好みにならない行為なのもわかっている。まして、「こんなにしているんだから私をもっと認めてください」という気持ちからではない。

 毎日、シンプルに腹筋と、腕立て伏せを続けて、数週間。次第に、私の身体の記憶は、静かに覚醒し始めたようである。

 「眼鏡が似合う胸板の厚い人」は、御主人様のタイプの男性である。鏡に映した自分の身体は、少し、好みに近づいているような気がした。

 私はただ、可能性があるなら、より「タイプに近い男性」の身体を自分のものにしたいと思うだけなのだ。

 エステに通い、ジムで特別メニューをもらって「肉体改造」すれば、某野球選手のように一気に変化が起きるかもしれない。けれど、それより、私は毎日少しずつ続ける何かで、少しずつ、何か御主人様が喜んでくださるものを身につけてみたい。

 結果よりプロセス、なのだと思う。

 (まだまだ、がんばれば大丈夫みたいだな・・・)


 クリップの苦痛に顔をゆがめ、次第に強くなっていく痛みに負けそうになる私。せめて御主人様の脚を触れ、もう少し強く苦痛を身体に染みこませよう両手を差し出すと、ため息のように細く息を吐き、微笑みながら優しく包んで紐で後ろ手に留められる。

 歯を食いしばり、胸部に力を入れた時、少しは厚く見えるだろうか。

 鏡の前で、そんな瞬間を想った。

 


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