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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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「女装M」×「男性S」【10】
 通路に示された自販機のマークの先を入ると、ドアのない3畳ほどのスペースに2台の自販機が並んでいる。

 人通りが決して少なくはない廊下から、数m横に入っただけで、一瞬だけ音声を切り取られたような静かな空間に、自販機から発せられる軽い振動音がかすかに響く。

 ぼんやりと壁を眺めながら強めの炭酸水を飲んでいた時、「彼女」は突然現れたのだった。

 たちまち、狭い空間は、「彼女」から柔らかく揺れる髪から発せられる芳香で満たされていく。狭い空間で鉢合わせした気まずさを隠すように軽く会釈をしながら、自販機の前から身体を返し、外に出ようとした瞬間、たまたま腰からカラビナで下げていた携帯電話が、「彼女」のバッグに丁度触れ、そのまま強く絡みながら引っ張られた。

 「あっ・・・!ご・・・ごめんなさいっ・・・」

 慌ててほとんど同時に声を上げる。
「女装M」×「男性S」【09】
 残る条件はあと2つだった。

 ・可能なかぎり全身の体毛を剃っておくこと

 ・腋の下、脚の指、首筋に、香水の薫りをまとっておくこと


 体毛の処理は、当日直前にしなければ意味がない。必然的に、次に用意しなければならないものは、香水だった。

 薫りをまとうために使うその液体は、女性が使うそれと、男性が使うそれとがはっきりと別れる道具の一つである。

 もちろん、ユニセックスを売り物にするブランドがあることは確かだけれど、女性だけが身につけるにふさわしい甘い薫り、そして、何時間か経過した後の持続香の奥に潜むその女性自身が持つ身体の薫りが、自分が持つ「男性」の性的欲求を昂ぶらせることを自覚していた。

 男性である私がどんなに望んでも自分の身体には得られない「ある種の薫り」。

 「彼」から「香水」を自分の身に使うことを提示された瞬間から、私は、女性しか使えない薫りを自分のものにする倒錯感に、心を高ぶらせていた。
「女装M」×「男性S」【08】
「そう・・・、ですね・・・、来週くらいなら・・・」

 曖昧な含みを持たせながら、あきれられない程度には前向きに、返事を返す。答えながらまた悩み、そして、さらに返事を待つ。

 「わかりました。私も来週なら時間が作れると思います。この間探してもらったホテルの予約はできましたか?」

 はっきりと、そして確実に前進されていく。私は、縄に絡めとられるようにその後を追う。

 「はい・・・、何曜日にしますか・・・?」

 ひとつひとつ、私は「彼」の磁力の強さに惹かれていく。
【目次】「女装M」×「男性S」
 SとM、主従関係の間には、いろいろな形があり、いろいろな悩みがあると思う。多くの場合、SMの形はとっていても、それはやはり「男性と女性」の関係を前提としていて、相手(異性)であるから故、繋がっていられることもあると思う。

 性にとらわれずに主従関係、もしくはSMプレイは成り立つのか、Mとしての欲求のまま、男性と関係を持った時期の、記憶と記録。
「女装M」×「男性S」【07】
 「彼」の提示する拘束具は本格的な分、とても高価だった。それまで、まるでおもちゃのような(実際、「ジョーク玩具です」とパッケージに書かれていた)「道具」を時々アダルトショップで見た程度だった私にとって、「彼」の言う通りに道具を揃えることだけでも、十分大きな決心が必要な行為だった。

 (本当に会うか、それとも・・・)

 何度も、何度も、いろいろな種類の淫具を手にしてきたけれど、どれもが自分に対して自分が使うことができるモノだった。

 (もし準備して、やっぱり気が変わった、と言ってあきらめがつくのか・・・?)

 「どう、しますか?」

 確認を促す言葉が、ディスプレイに表示される。

 5秒、10秒、20秒・・・、キーボードに両手を置いたまま、私はまた、どちらを選ぶか、また迷った。

 (返事をしなければ、断ったものと「彼」は思うだろう・・・、もう、後戻りは・・・)
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