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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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「女装M」×「男性S」【15】
 指定された「道具」は全て用意した。

 「男同士」でフロントを通り、数時間を過ごすことのできる場所を確保した。

 「会う」までに少なくとも数週間の時間を掛け、夜遅くまでSM談義を交わし、お互いの思うところを確認しあった。


 もう、これ以上、今の位置で立ち止まったままなすべきことは無かった。あとはホテルに電話して、仮予約を本予約に変更して、待ち合わせの時間だけを決めるだけで全てが現実になる。

 最後の一言を、どうしてもためらう。

 「あの・・・、一つだけお願いが・・・」

「女装M」×「男性S」【14】
 「彼」から指定された「道具」を揃え、久しぶりにチャットルームを開く。数日ぶりの見慣れた画面の中に、彼の名前は無かった。

 (誰かと話しているのかな・・・)

 自分と違い、今日の話し相手はとんとん拍子にステップを進んでいるのかもしれない。そう思うと一つ一つの行為にいちいち理由をつけなければ先に進まない自分が急に恥ずかしくなった。

 【人待ち】

 いつも使っているハンドルネームで入室すると、待機メッセージを叩きつけるように打ち込んだ。「彼」なら私だとわからないはずはない。そして、「彼」以外の誰とも話すつもりは無かった。
「女装M」×「男性S」【13】
 女性の装いを完成させるために必要で、かつ男性が手に入れにくいものがもう一つある。

 「靴」だ。

 靴、と一言でいっても、ミュールだったり、ブーツだったり、パンプスだったり、女性の靴は、「装う」といえばスーツに革靴程度しかパターンのない男性と違い、選んだ洋服それぞれと一緒に、全体をまとめていく華やかさに溢れている。

 「彼」と初めて逢うことになった頃、街には真夏の日射しが毎日照りつけ、ノースリーブにシースルーのストッキング、ピンヒールのミュールを履いた女性が溢れていた。

 細い、とは言えないまでも、シェーバーで翳りを取り去った自分の白い肌にストッキングを履けば、私の脚もそれなりには見せられる脚になるはず、だった。
「女装M」×「男性S」【12】
 「男性」の姿のまま、女性しか使わないものを手に入れることは、当然のことながら何らかの「言い訳」が必要になる。
 ブラジャーやショーツを男性に買いに行かせる女性など、いくら時代が変わったとはいえ、普通ならあり得ないだろう。女装する男性向けのショップもあるにはあるが、今度はデザインが古くさかったり、第一、値段が異常に高く、買うことを躊躇せざるを得なくなる。だから、やっぱり通販は、私達のような存在にとっては、頼みの綱のようなものだ。

 しかし、「選ぶ」という行為は、通販では叶えにくい。どんなに立派なカタログでも、Webサイトでも、視覚以外の感覚を「選ぶ」ために使うことはできない。

 薫りを嗅がなければ香水は選べない。そして、男性が身につけるものよりも、女性のそれの方が、ずっと身体のサイズぴったりに作られている。「彼」の指示どおりに一つ一つそれらを集め始めた私は、実際に手にとって試してみなければならないものが思いの外多いことに気がつき始めていた。
「女装M」×「男性S」【11】
 それから数年間、「彼女」の姿が頭の中から離れた日は無かった。

 きっとそれは、「彼女の何か」が、「その時の私」の琴線に触れていたからなのだろう。自由恋愛が許されない立場にありながら心を動かされた原因が何だったかを分析することは、今となっては難しいことだけれど、「男と女」には、そういう、一時だけの磁力がはたらくことがあるような気がする。

 そして、そういう一時だけの磁力は、時に甘美な麻薬のように心を蝕み、やがてその「一時」が過ぎてしまえば、記憶に留めておく価値すらない心の煤となってしまうのだろう。

 一年で一番大切な日、彼女を想ってカードを選んだ日の気持に、私がもう戻ることはなく、そして、「一時」のことを心の過ちのようにすら感じるのは、なぜなのだろうか。
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