「男性」の姿のまま、女性しか使わないものを手に入れることは、当然のことながら何らかの「言い訳」が必要になる。
ブラジャーやショーツを男性に買いに行かせる女性など、いくら時代が変わったとはいえ、普通ならあり得ないだろう。女装する男性向けのショップもあるにはあるが、今度はデザインが古くさかったり、第一、値段が異常に高く、買うことを躊躇せざるを得なくなる。だから、やっぱり通販は、私達のような存在にとっては、頼みの綱のようなものだ。
しかし、「選ぶ」という行為は、通販では叶えにくい。どんなに立派なカタログでも、Webサイトでも、視覚以外の感覚を「選ぶ」ために使うことはできない。
薫りを嗅がなければ香水は選べない。そして、男性が身につけるものよりも、女性のそれの方が、ずっと身体のサイズぴったりに作られている。「彼」の指示どおりに一つ一つそれらを集め始めた私は、実際に手にとって試してみなければならないものが思いの外多いことに気がつき始めていた。
ブラジャーやショーツを男性に買いに行かせる女性など、いくら時代が変わったとはいえ、普通ならあり得ないだろう。女装する男性向けのショップもあるにはあるが、今度はデザインが古くさかったり、第一、値段が異常に高く、買うことを躊躇せざるを得なくなる。だから、やっぱり通販は、私達のような存在にとっては、頼みの綱のようなものだ。
しかし、「選ぶ」という行為は、通販では叶えにくい。どんなに立派なカタログでも、Webサイトでも、視覚以外の感覚を「選ぶ」ために使うことはできない。
薫りを嗅がなければ香水は選べない。そして、男性が身につけるものよりも、女性のそれの方が、ずっと身体のサイズぴったりに作られている。「彼」の指示どおりに一つ一つそれらを集め始めた私は、実際に手にとって試してみなければならないものが思いの外多いことに気がつき始めていた。
猥雑な空間に無造作に並べられた香水たち。
あとあと考えてみれば、「香水をプレゼントする」などという相当にレアな行為をさらりとこなせるような男性なら、本当はこんなところで香水を買うわけがないだろう。最愛の人に対して、「少しでも安く買おう」などという気持ちを持つようでは、一人の男性として失格なはずだ。
冷静に考えればわかることでも、すっかり熱くなった私の頭にはそこまで考えは及ばず、正面突破で店員に尋ねる。
「あまり派手じゃなくて、大人っぽくて、控えめな感じで、会社にでもつけていけるような感じのコロンをプレゼントしたいのですが・・・」
店員は、さして珍しくもない、といった表情で、ショーケースの中から数本の瓶をとりだし、テスターの先に付けて嗅がせた。
「EDT」が「オー・デ・コロン」の略だということも知らなかった私は、薦められるがままにいくつかの薫りを試し、比較的好感を持てるものを買ってみることにした。
しかし、テスターにつけた瞬間の薫りは、柑橘類の皮を剥いた時にはじけるような刺激の強いものが多く、「彼女」が歩きながらふわりと周囲の空気に自分の薫りを織り交ぜていった時のような柔らかで鼻の奥に色をつけていくような薫りでは無かった。
つけた瞬間の薫りと、時間がたったときの薫りは違うものであることはわかったが、残念ながら私にはそれまでじっくり時間を掛ける余裕は無く、結局1時間後、ラッピングもしないまま無造作に手提げポリ袋の中にほおり込まれた「Happy」を抱えながら、その日は帰宅した。
(これで、「彼女」になれるかもしれない・・・、そして、「彼女」を抱くことができたら嗅いでいたかもしれない薫りを、自らの身体をテスターにすることで味わうことができるかもしれない・・・)
そのことを考えると、突然、心がはやるのを、私は留めることができなかった。
「彼」に提供できる自分になるための準備が、一つずつ、できはじめていた。
あとあと考えてみれば、「香水をプレゼントする」などという相当にレアな行為をさらりとこなせるような男性なら、本当はこんなところで香水を買うわけがないだろう。最愛の人に対して、「少しでも安く買おう」などという気持ちを持つようでは、一人の男性として失格なはずだ。
冷静に考えればわかることでも、すっかり熱くなった私の頭にはそこまで考えは及ばず、正面突破で店員に尋ねる。
「あまり派手じゃなくて、大人っぽくて、控えめな感じで、会社にでもつけていけるような感じのコロンをプレゼントしたいのですが・・・」
店員は、さして珍しくもない、といった表情で、ショーケースの中から数本の瓶をとりだし、テスターの先に付けて嗅がせた。
「EDT」が「オー・デ・コロン」の略だということも知らなかった私は、薦められるがままにいくつかの薫りを試し、比較的好感を持てるものを買ってみることにした。
しかし、テスターにつけた瞬間の薫りは、柑橘類の皮を剥いた時にはじけるような刺激の強いものが多く、「彼女」が歩きながらふわりと周囲の空気に自分の薫りを織り交ぜていった時のような柔らかで鼻の奥に色をつけていくような薫りでは無かった。
つけた瞬間の薫りと、時間がたったときの薫りは違うものであることはわかったが、残念ながら私にはそれまでじっくり時間を掛ける余裕は無く、結局1時間後、ラッピングもしないまま無造作に手提げポリ袋の中にほおり込まれた「Happy」を抱えながら、その日は帰宅した。
(これで、「彼女」になれるかもしれない・・・、そして、「彼女」を抱くことができたら嗅いでいたかもしれない薫りを、自らの身体をテスターにすることで味わうことができるかもしれない・・・)
そのことを考えると、突然、心がはやるのを、私は留めることができなかった。
「彼」に提供できる自分になるための準備が、一つずつ、できはじめていた。
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