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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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「女装M」×「男性S」【07】
 「彼」の提示する拘束具は本格的な分、とても高価だった。それまで、まるでおもちゃのような(実際、「ジョーク玩具です」とパッケージに書かれていた)「道具」を時々アダルトショップで見た程度だった私にとって、「彼」の言う通りに道具を揃えることだけでも、十分大きな決心が必要な行為だった。

 (本当に会うか、それとも・・・)

 何度も、何度も、いろいろな種類の淫具を手にしてきたけれど、どれもが自分に対して自分が使うことができるモノだった。

 (もし準備して、やっぱり気が変わった、と言ってあきらめがつくのか・・・?)

 「どう、しますか?」

 確認を促す言葉が、ディスプレイに表示される。

 5秒、10秒、20秒・・・、キーボードに両手を置いたまま、私はまた、どちらを選ぶか、また迷った。

 (返事をしなければ、断ったものと「彼」は思うだろう・・・、もう、後戻りは・・・)
 「わかりました、準備します」

 返事がないことを不審に思う限界の少し前、私は「彼」にそう告げた。キーボードを叩き終えた瞬間、ふっ、と緊張が解けるような気がした。

 「決心」はもうその前にもしていたはずだった。

 それなのに一つ一つ、何かを訊かれ、何かを提示され、その答えを言うことに私は返事に窮し、また、無言でいることが拒絶の意味になる時間が経過することに翻弄されてしまう。

 (どうして一度に全てを受け入れられないのだろう・・・。)

 買うか、買わないか、店に入るのか、やめるのか、それまで自分一人で決めてきたこと、それも確かにある種の「決心」ではあったはずだ。

 未成年者禁止の表示を横目にみながら、古書店の棚に並ぶSMグラビア雑誌をレジに持っていくことを決める時、レンタルビデオショップで「有名女優」コーナーではなく、「レイプ・SM」のコーナーにあるビデオを店員に差し出す瞬間、そして、SM用具の専門ショップに足を踏み入れる瞬間、どれも、その時点での私には何度もためらわなければできない決心だったのだから。

 しかし、自分が変態性欲者(と呼ばれるに違いない性的嗜好を持っていること)であることを明かした後、身体の自由を差し出すリスクの先には、相当大きな「果実」があることを約束されない限り、冷静に判断できる人間ならば「決心」することなどあり得ない。今までしてきた「決心」とは、まるで重さが違うのは当然のことだった。

 自分が望む行為が現実になる期待に昂奮し、冷静になれ、とためらい、「彼」と同じ時間を共有しているが故に、時計の針がその迷いを許さなかった。

 「いつ頃なら、会えるでしょうか?」

 次のハードルが、また提示された瞬間、また私は「決心」の手前で悶えていた。
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