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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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「映画館」・デビュー【02】
 自宅からパンティストッキングを履いたまま外に出ると、いつもと違う空気感に戸惑うと同時に、女性っていいなぁ、と、自分の身体に向けて感じる。電車に乗っている間は、待ち遠しいのと期待と不安。電車がホームに着くと、私ははじかれるように映画館に向かった。


 狭い入口で入場券を買い、ネットで調べた「特別席」に向かう。ドアの前には常連らしき数人の男性がいて、足を踏み入れた人を確かめるようにちらちらと盗み見ているが分かる。


 男性たちは、お互いに対してはあまり興味を示さない。でも、男性の姿でも大きなバックを抱えていれば、中に女装道具が入っていることを察しただろう。


 一人の男性がこちらを見て、私が着替えるタイミングを計っていることに気づいた。慌てて目をそらしたけれど、視線はずっと私に注がれているのが分かる。視線をかいくぐるようにして、トイレへ向かう。


 (えっ・・・鍵・・・?)


 個室のノブが回らない。いつも着替えや、気に入ったもの同士の「プレイ部屋」として使われているようで、しばらく近くで待ってみても、一向に開く気配がない。どうやら「先客」が中に2人いるみたいだった。しばらく、外で待っていた。


「あなた、着替えたいの?」


顔を上げると、ロングヘアの女装者が私を見ていた。頷くと、


「それなら別のトイレにいったほうがいいわよ。なんだか長くかかりそうだから」


隣の男性と腕を組みながら肩にもたれかかる姿。掲示板で、「常連さん」と呼ばれている人だろうか。しかたなく別の階のトイレを探す。今度は、普通の男性用トイレに入り、扉の鍵をかけた。


 知らない間に、体中が、汗に濡れていた。
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