オフィス用のスーツ。何の変哲もない丈のタイトスカートも、ウエストを捲りひざ上20センチ位にしてしまえば、白い太腿を見せつけるには十分。ミニスカートの女性の脚に目がいかない男性がいるはずもない。自分だって、そうなのだから。
蛍光灯の青みがかった暗いさの中で、ポーチの中を探る。手鏡を忘れてしまったことに気づく。目の前の小さな手洗いの鏡は、ひび割れて半分くらいの大きさしかない。顔を近づけ、暗がりでも目をひくように、濃い目のルージュをひいた。
視線を少し上に上げると、通りがかった男性が背中から私を見つめているのが映った。鏡ごしに、一瞬目が合う。
視線をそらす男性。
気弱そうな風貌に、安堵と落胆両方の香りを感じ、視線を手元に移した瞬間、生暖かい手のひらが、お尻に触れた。ハッ、として鏡から目を離し、あしらったほうがいいのか、戸惑う。
ほんの一瞬の無言は、「女」の承諾の合図になる。
好きなように、撫で回され始めた。たちまち、化粧に集中できなくなる。手のひらを振り払おうと何度か、ためらった。ためらいと男性の生暖かい手のひらの感触とを交互に感じているうち、私の緊張は、どんどん、高まっていく。
やっと化粧を終えて、トイレを出たとたん、客席のドア前にいた男性達が無遠慮な視線を向けた。いつも自分が女性に対してちらりと向ける視線はこんな風に見えるのだろうか。
ドアを開けると、暗がりに目が慣れず、全部は見渡せないが、かなりの男性が座っているようだ。ます。女装者はほとんど見当たらないところを見ると、客席の男性もそういった行為には興味のない人が多いのだろうか。
ゆっくりと、人が数名立っている、手すりの部分に身体を運ぶ。コツ・・・コツ・・・とヒールの音が、暗い空間に、案外大きく響く。その音が心地よかった。私が、ここにいることを、高らかに男性たちに教えているようだった。
そっと、そっと足を運び、客席の一番後ろ手すりに手をかけて立つ。周囲の4名ほどの男たちの様子をうかがいはじめたとたん、私との間合いを計っていた一人の男がお尻に手を伸ばした。スカートの上から右手でゆっくりと触り、続いて肩口に唇を寄せ、反対の手で私の下腹部を撫でる。熱く、じっとりと湿った手で、私の恥骨と臀部がサンドイッチにされ、肩には熱い息が、かかった。
あまりに無遠慮な愛撫に戸惑う。
(私、男性の欲望の的になってるんだ・・・今・・・)
注目されている、その中心にいる。その事実は、私の胸を張らせ、もっと自分の身体を見せ付けるように両足の間隔を少しだけ広げさせた。
一呼吸おいて、周りの男たちはすぐに私に群がりはじめる。2,3人が私の顔をじっと見つめ、身体のあちこちを触る人が3人くらいに増えていた。お互いがけん制しあいながら私のあちこちを眺めている。顔、脚、お尻・・・。
急に身体が熱くなるのが、分かった。
| ホーム |