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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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ふたり 【01】
 秋の朝の清浄な空気が、白を基調にした明るい部屋の中に満ちている。
私は、私の御主人様が生活するこの空間が、自分を最も美しく演出してくれることを知っていた。

「由梨」になるために、身体から雄の匂いを消し去らなくてはならない。シャワーを念入りに浴び、体毛の処理をし、ドレッサーの前で目をつぶって自分の中の淫らな部分に火をつけていく一瞬が、とても心地よい。

「貴方のために、今日もキレイになります」
鏡の前で小さくつぶやくと、美恵のことを想った。

 「由梨」は、彼女の主人である美恵が見つけ、美恵が育てた、美恵にしか価値のない「女奴隷」である。
 男性として生まれながら、どこかで女性として生きることを望んでいた私が、男性を女装させて弄ぶ快感を知る女性である美恵に出会えたのは、ネットの上でのふとしたきっかけでしかなかった。美恵によって私は自分が美しく生まれ変わる快感を知り、自分でも信じられないほどの被虐趣味を身体の中に宿していたことを知ったのだった。

 白く輝く光が満ちあふれた部屋の中で、念入りにベースメイクを施し、薄くファンデーションをのばしていく。私は完全なメイクにあこがれていたが、昼間の生活がある以上、あまり極端なメイクをすることはできなかった。眉をなるべく細くし、まぶたと眉の間隔をできるだけ広く取る。どうしても透明感の少ない肌をカバーするため、ファンデーションはあまり白すぎるものを選べない。本物の女性が使う道具を同じように使えないことは不満だったが、とはいっても、「いつかは完全な女性になりたい」と想うだけしかできないのが現実だった。ふくよかな脂肪をたたえた白い肌、私は夜毎、女性の身体を欲し、自分の身体を恨めしく眺めていた。

 (でも、だからこそ意識の中で美しく輝く女性でありたい・・・。)

 ルージュを少し濃い目に引き、アイシャドーも派手なものを選んだ。それを乱されることを望みながら・・・。

 
 いつも、羞恥心と、背徳心を絶対になくさないよう、命じられていた。

 「由梨」にさえなればいつでも乱れ、何でもおねだりするような「女」には興味がない、といつも美恵は命じていた。私の中にある「真っ当な男であろうとする自分」を繰り返し繰り返し何度も壊すことを美恵は望んだ。私はその度、いつもその望みの深さに悩みながらも、どうしても美恵から離れられなくなっていった。

 最後に腋下に制汗スプレーを吹き付け、お気に入りの下着を取り、スーツに袖を通していく。美恵はもうすぐやってくるはずだ。身体から、従順であろうとする気持ちが自然に湧き上がる。仕事を終えてやってくる美恵は、どんな顔だろうか。ドア外のコンクリートの廊下を、美恵の足音が近づいてくる。
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