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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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「女装M」×「男性S」【16】
 「おやすみなさい、また、明日・・・」

 全ての「準備」を終えて、最後にチャットルームを閉じてから、私は、数時間後に訪れる初めての経験を思い、眠れない夜を過ごした。

 夏の日射しが、東の空から照りつけ始めるまで、あまり間がない時間だった。

 
 興奮を抑えられないまま、それでも、いつの間にか眠った私は、目覚ましの音で朝を迎えた。

 全身にシャワーを浴び、全身から男性の香りを少しでも取り去るように、いつもよりも何度も身体を洗う。次第に、はっきりと意識が覚醒して、眠る前の気持を思い出す。

 (本当に、大丈夫なのかな・・・、何かが起きたら・・・)

 眠っただけで不安が消えるはずもなく、私は、淡々と両手を動かして身体を洗うことに集中しようとしていた。

 「道具」は全て昨日のうちにリュックに入れてあった。先にホテルに入り、チェックインして、後から来る「彼」が不審がられずに部屋まで入れるように、申し合わせもしてある。

 ホテルのデイユースが始まる時間に余裕を持って着く時間に部屋を出た。余裕を持っていたかったのではなく、興奮でいたたまれなかったから、なのかもしれない。

 普段通勤ラッシュを避けて使っている電車よりも30分ほど遅い電車に乗ると、激しい混雑に押し込められ、息もつけないほど全身が他人の身体に密着する。

 勤務先へと向かう車内で、無言で身体を寄せ合う中、一人、私は女装して男性に縛られるために電車に乗っている。その違和感を思うと、不思議な気分がした。

 夏場の車内はドアが閉まる度に急激に温度を下げようとする冷気で攪拌されている。人いきれで満ちた車内で、「彼」がどんな顔をしているのか、時折考えながら、ただ時が過ぎるのを待った。

 ターミナル駅に到着し、吐き出された人の流れに沿って、別の路線に乗り換えるために階段を下る。さっきよりももっと激しく混雑したホームは、人の頭で埋め尽くされているように見えた。

 やっと電車の中に入り込むと、駅員に身体を押し込むように押され、手に持っていたリュックを抱え、身体を丸めながらまた、無言の人いきれの中で数十分を過ごした。

 都心の中心部。

 若い恋人たちが使うホテルが並ぶような街ではなく、スーツ姿の男性ばかりが溢れた街の中の、ビジネスホテルが逢瀬の舞台だった。

 ホテルの位置を確認すると、最後に、「彼」がホテルの側で用意するように命じたものを買うため、近くの通りを夏の日射しに照らされながら、歩いた。



 
コメント
この記事へのコメント
檻の中へ
 自分から進んで入っていく気持ち・・・。
日差しがまぶしいです。
2007/03/20 (火) 17:25:43 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
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