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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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「女装M」×「男性S」【18】
 ほとんど日の光が届かない窓のない廊下の突き当たり、暗がりの中、鉄扉のノブに手をかけ、大きく開いてみると、部屋には大きな窓から夏の朝の日射しがしっかりと入っている。

 日光がガラスから部屋に持ち込む輻射熱は、古びたエアコンの冷気を熱で染め上げるほどの強さで、緊張の中、外を歩いてきた私はすぐに全身から汗が滲みはじめた。

 (まさに・・・角部屋、だな・・・)

 カーテンで日射しを遮り、エアコンを強め、様々な道具を詰め込んだ鞄をソファーにおいて、辺りを見回す。
ダブルのベッドに、小さめのソファーとテーブル、L字形の部屋はワンルームマンションくらいの広さの床が確保されている。

 (このくらい・・・、あれば・・・)

 大きめのクローゼットに、ゆったりしたバスルーム、全く簡素で古めの家具ではあったけれど、「居心地」は悪くなかった。

 ベッドサイドの時計を見ると、指定した時間まで、もう1時間を切っていた。




 慌てて洋服を全て脱いでバスルームへ入り、電気シェーバーのトリマーを使って、両足の脛からふくらはぎへゆっくりと進めていく。何の薬も使っていない私が「ここぞ」というときに一番綺麗な姿になるためには、直前にこの方法で処理をするのが一番いい。一人で何度か女装するうちに気づいていた。

 振動音をバスルームに響かせながら、丁寧に両足を覆っている翳りを取り去っていくと、長い間焦がれ続けた「M女」になる興奮が、次第に身体を満たしていく。

 両足、胸元、両脇、ビキニライン・・・、男性の身体に存在スク「翳り」を一つ一つ取り去った先に、「M女」の姿がある。男性にしてはきめの細かい白い肌は、自分で見ても艶めかしいと思う。

 仕上げに、カミソリを滑らせながら完全に身体を剥き出しにした後、「彼」から言われた一言を思い出す。

 「両足、両脇、指、それから陰部と肛門の周囲は、可能な限り処理してください。それから、両脇と膝の裏と足の指にコロンをしておくこと。絶対に守ってください」

 (そうだ・・・、後ろ・・・、きれいにしなくちゃ・・・)

 毎日使っているカミソリのホルダーを持ちながら、しかし、使ったこともない個所にその刃先を向けることが案外難しいことを、私はその時初めて知った。

 ほんの一握りの人以外、男性は「見られる」という意識のないまま、大人になっていく。その過程で、「見る」ことに特化した感覚だけは次第に敏感になるが、多くは、そこで成長を止めてしまう。

 こうして、「見られる」ことに対応するための多面的な準備は、いやでも自分を観る目を客観的に、鋭くさせていくし、だからこそ、女性は自分の身体や見た目について、時々信じられないくらい自信がない様子を見せたりするのかもしれない。

 なんとかそれなりの処理を終え、バスルームの外にでると、既にエアコンの冷たい空気が部屋に満ちていた。

 肌から翳りを取り去ると、空気の感じ方まで変わる。

 洗面台の上にメイク道具を広げながら、「彼」が来るまでの短い時間で、私は「女」を自分にまとうための準備を始めていた。
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