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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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翌週、金曜日。
 夕焼けの色に染まりながら、楽しそうに笑う女子高生の横を小走りに通り抜け、私は通りの角に面した映画館の入り口に滑り込む。


焦りながら、ポケットから自動券売機に千円札を2枚と、コインを入れる。通りから私の姿を背中から見ていないか、背中で視線を遮りながら、流れていく汗を感じる。


入場券が出てくるまでのほんの数秒が、もどかしくて焦れったい。


 古い券売機が大げさな音を立て、券をはき出すと、もぎ取るようにそれを取り、無言で、差し出す。


 もぎりのおばさんは、私が何をしに来たか、知ってる。本当の女だから、「女」がなくなった今も、男を求めて集まる「女」には、突き放したように醒めた視線を浴びせるのだろう。


 その視線を意図的にそらしながら、入場券を貼り付けているノートを盗み見た。今日も、客が多そうだ。すぐにくるりと背を向け、急な階段を、今は目立たないよう、帽子で顔を隠しながら上る。


 私がこれから「女」になることを、館内にたむろしている男達、そして、それに囲まれる女たちには、まだ知られたくない。


 帽子を目深にかぶり、視線を合わさずに二階の奥のトイレに向かう私に、また、背中から視線が突き抜けていた。そのことに気がつかないのは私だけ。ここにリュックサックを持って来る若い子は、ほとんどが「獲物」になりたい子たちなのだから。


 最近、この映画館で、「女の子」がちょっとしたトラブルを起こして厄介ごとになってから、男性達の「行為」がおとなしくなった情報は収集済み。でも、今日しかできないことは今日したい。私はもう、自分を抑えることなんか、できない。少なくとも、この先がどこまで見えるか分かるまでは・・・。


 金曜日の夜はサラリーマン風の男性が多い。でも、その割に「お仲間」の女はあまり多くない。注目されたいなら狙い目なはず。でも、いきなり着替えて、自分一人しかいない状況は怖い。下見を最初に男性の姿のまま、客席のドアを、開いた。


(やっぱり、3人くらい、かな・・・)


 暗がりに、ロビーの蛍光灯の光を射し込み、「女」たちを確認したら、すぐ、外にでてトイレに向かう。前回は、着替えをはじめても、入れ替わりドアをノックされて落ち着くことができなかったけれど、今日は誰も邪魔されずにいられるだろうか。


(ラッキー、だれもいない・・・。)


 弾む息を整えもせずドアを開け、すぐに鍵を掛ける。。汗ばんだTシャツを脱ぎ、望んでいた姿に戻っていく私。今一番お気に入りの白いチャイナドレス。スリットからのぞく白い脚が、きっと、目にとまるはず。


 今回はゆっくりとメイクができそうな気がした。手鏡を取り出し、扇情的な真っ赤な口紅を、下唇を少し大きめに丁寧に塗りつけると、不思議なくらいいやらしい娼婦風のメイクになる。マスカラで目を大きく見せれば、暗がりに向かうのが少しもったいないくらい。少しばかり、高揚した気持ちで、ドアを開ける。


 トイレを出ると、年配の女装者が2人。こんばんは、と挨拶すると、若い女装者に少し驚いたよう。


「あんまり派手に遊ばないで」


 怖い顔をした方が声をかける。やっぱり「騒ぎ」のあと、見回りとかも強化されているのかもしれない。前みたいには感じにはできないような、圧力を感じた。


(はい)


と小声で答え、客席に、荷物を抱えて入った。

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