最初は、話ができることだけでも満足だった。
この世の中に、自分の嗜好と同じ世界に生きる女性は確かにいる。受話器越しにではあるが、その息遣いを感じられることだけで、私は満足だった。
「いくつなの?」
「身長は?体重は?」
「芸能人でいうと、誰に似てる?」
自分でもこっけいなほどに胸を躍らせながら、簡単な自己紹介、たわいもない話、数々の問いかけに、ひたすら「はい」か「いいえ」で答え続けた。
この世の中に、自分の嗜好と同じ世界に生きる女性は確かにいる。受話器越しにではあるが、その息遣いを感じられることだけで、私は満足だった。
「いくつなの?」
「身長は?体重は?」
「芸能人でいうと、誰に似てる?」
自分でもこっけいなほどに胸を躍らせながら、簡単な自己紹介、たわいもない話、数々の問いかけに、ひたすら「はい」か「いいえ」で答え続けた。
返答が気に入らなければ、「彼女」たちは無言で受話器を置く。
その瞬間、喪失感と、徒労が全身を襲った。
何度もそれを繰り返しているうち、
「経験はあるの?」
「鞭は好き?」
「飲尿はできる?」
具体的な問いかけが、「最後の問いかけ」になることが多いことに気づいた。身長や体重を答えた瞬間に切られることはほとんどない代わりに、この種の質問に対して、気に入らない返答をしてしまえば、その先はもうなかった。
一度切断されてしまえば、リベンジの機会は与えられることはない。ごくまれに、女性が待機している男性全てを回り、もう一度つながることがあったけれど、さっき断った男だ、と思われた瞬間、結果は同じだった。
少し声色を変え、さっき切られた時の返答と別の答えをしてみる。
確かに、もう少し先まで話すことができた。でも、当時実際に「会う」とへの警戒感は私には消しがたく、たまたま種々の質問に上手に返答できたところで、いつ、どこで?と決める段階になれば、それ以上何をいうこともできなかったし、大抵は「経験がない」と答えた時点で敬遠された。
携帯電話がまだ無かったし、見知らぬ変態男と密室で二人きりになるリスクを冒してまで、初心者を育てようなどという余裕は、彼女たちの方にも無かったはずだ。
今思えば、そのときに思い切って誰かと実際に会っていれば、その後の私も変わったかもしれない。
しかし、たった数十分電話で、自分の属性や好きな行為を伝えるだけで、実際に会ってみようとは思えなかった。
私は、そのときはまだ、話しをするだけで十分だったのかもしれない。
何度か、テレホンセックスじみたことを試みたこともあったけれど、本当は、心の中にSの欲求を持つ女性が、普段どんな顔で過ごしているのか、どんな声で話して、どんな欲求を持っているのか、それを知りたかったのだと思う。
どこかのホテルで「経験」したいとばかり願っているわけではなかった。
ある日、ふと、受話器の向こう側にいる「彼女」のことを思った。
こちらが高額の費用を支払っていることとは反対に、
無料で話し相手を好きなだけ選べる。
気に入らない相手は受話器を置くだけでいい。
次の相手はいくらだっている。
いいこと尽くめのように思えた。
大抵のツーショットダイヤルは、いたずら電話防止のため、男性用の番号が掲載されている雑誌には女性用の番号は載っていない。まだその頃は今ほどSM趣味が一般的でなかったためか、普通の女性雑誌にはSM系の広告は掲載されていなかった。
その趣味を持つ者は多くは無かったのだろう。「特殊な趣味を持つ一握りの読者向け」の「SMスナイパー」や、「Mistress」の中には、同じ広告の中に、両方の電話番号が記載されていた。
私のように「情報料」を払っている男性たちは、どうやって女性と話しているのか、知りたい。
いつもと違うフリーダイヤルの番号に電話をかける。
いつもと同じBGMが受話器から流れたかと思うと、すぐにつながったことを知らせるチャイムが鳴る。いつもなら大抵10分は待たないといけないところだ。
(もしもし・・・)
オドオドした暗い声の中年男性の声が、受話器から聞こえた。
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