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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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「SMツーショットダイヤル【最終】)」
 SMは一人では成立しない。
そんな当たり前の現実が身に染みていた。


 自分の欲求を実現することを渇望する衝動が向かう先は、受話器の先の女性しかなかった。そして今や、「S女性」と名乗る女性とのたわいもない会話だけで好奇心を満足させるだけではいられなくなっていた。


 (会ってみよう・・・)


 そう心に決め、他の女性につながりやすく、男性の利用は少ない時間帯を推測した。
 平日の夕方。そして、21時過ぎ・・・。少しづつ時間を変えて、次第にかさんでいく電話料金とは裏腹に、かえって以前よりも会話が続かなくなった。


 一通り話しをして、趣味の確認をして、何時にどこなら出てこられるかを決め、ホテルの費用負担の話しをして・・・。
 そこまで話すと大抵「いやな沈黙」が流れた。


私には、語るべき「経験」が無かった。


どんなに自分のM性を普段から意識しているかも、どれだけ真剣にそのM性に向き合ってきたかも、話すチャンスもなければ、評価されることも無かった。


ひたすら、


「経験は?」


「何ができるの?」


質問される度、答えに窮した。


この質問に、自分が初心者であることを告げると、電話を切られる率が格段に上がる。そのことが分かっているだけに、時には経験豊富なMを「演じて」みたし、いろんな「経歴詐称」をしてみた。


全ては、直接会って、直接、Mとして扱ってもらうために。


 何度か質問をかいくぐり、待ち合わせの場所を決めるまでたどり着いたこともあった。鞄の中に、洗濯ばさみとイチジク浣腸、鞭代わりの革ベルトなどを詰め込み、近くの駅、大きなターミナル駅の改札前、2~3回、指定の時間に出かけていった。


 15分、30分、1時間、時間を過ぎても、「目印」を持った女性が現れたことはなかった。


(やっぱり、これじゃ、ダメなんだ・・・)


 何万円かを怪しげな業者へ「情報料」として収めた見返りとして残った成果は、むなしさだけだった。女性達がいう「経験」を得ることもできず、誰かとつながっている実感をもたらすことも無かった。


 それは、100円ショップでお気に入りの品物を見つけようとするかのごとく、また、一度見逃した品物にもう出会えないことにも似ていた。


 私がツーショットを使うのを止めた頃から、規制が厳しくなってダイヤルQ2は下火になっていった。親の目を盗んで電話を掛けて、数十万円の請求が届くケースや、それに親が異議を申し立てて訴訟になったり、ということがテレビで流れ始めていた。


サービスの対象が、モノを考えもしない「子供」相手になった瞬間、まともな大人はそこに近寄らなくなっていく。「子供の不始末」を、大人が恥ずかしげもなく居直るような状態では、私が探しつづけている「Mとして生きる自分」の姿を提示してくれる人に巡り会えるわけも無かった。


インターネットが、自由に使えるようになるまでには、まだ1年近くの時間が必要だった。


私は、ひたすらシネマジックのビデオと結城彩雨の作品をビデオレンタル店や、古本屋で手に入れ、それらのほとんど全てに目を通しながら、ただ悶々とし続けていた。

テーマ:SM - ジャンル:アダルト

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