「下ろして頂戴・・・、逃げたりしないから・・・。」
静寂に、静かに波紋を広げるような落ち着いた声で、知加子が私に呟く。どうして女性というのは、本当の修羅場になるとこんなに落ち着いていられるのだろうか。
さっきまで華奢なうめき声を上げ、苦痛に汗を滲ませ、崩壊寸前だったことが信じられない。
「知加子・・・、さん・・・?」
「貴方の話を聞きたくなったの。逃げてどこかに訴えるなんてしないから、ね・・・?本当に、腕が、もう限界なの・・・、これ以上このままだったら・・・、本当に腕が、ダメになりそうだから・・・」
今度は、私が逡巡する番だった。
静寂に、静かに波紋を広げるような落ち着いた声で、知加子が私に呟く。どうして女性というのは、本当の修羅場になるとこんなに落ち着いていられるのだろうか。
さっきまで華奢なうめき声を上げ、苦痛に汗を滲ませ、崩壊寸前だったことが信じられない。
「知加子・・・、さん・・・?」
「貴方の話を聞きたくなったの。逃げてどこかに訴えるなんてしないから、ね・・・?本当に、腕が、もう限界なの・・・、これ以上このままだったら・・・、本当に腕が、ダメになりそうだから・・・」
今度は、私が逡巡する番だった。
妄想の限りを知加子に展開しようとしていた私は、思いがけない反応に戸惑い、そして、なんとか主導権を取り戻そうと焦った。
しかし、焦るほどに「次の行動」に確信が持てなくなり、思い立っては手を止め、口に出そうとしては言葉を呑み込み、ただ、無言で立ちつくすしか無かった。
「早く・・・、手が・・・痺れて、もう、限界なの・・・」
知加子の拘束を厳しくしてから、もう1時間近くが経過している。限界と考えていた時間をゆうに超えていることに、私はその時まで気がつかなかった。
(しまった・・・!鬱血が・・・)
知加子の肘の動きを止めている縄の両側の皮膚の色が浅黒く変わってしまっている。これほど鬱血すると、痛みではなく、鈍い痺れが両腕から拡がっているはずだ。
鋭い痛みには悲鳴を上げても、鈍く、長く続く痛みには耐えてしまうのが女性特有の感覚なのか。痛みを訴えない知加子の反応に安心し、私は何十分も自分の欲望に任せて知加子を味わうことに没頭していた。
慌てて、非常用に準備していたニッパーで麻縄を切り落とし、崩れ落ちて倒れる知加子を抱きかかえると、床に寝かせ、両肘と両手首を厳しく戒めている麻縄を切断する。
沈んだ褐色に染まり始めていた二の腕と手首に、一気に血流が戻り、知加子の白い肌を急激に紫に変え始める。
(両腕に痣が残ってしまう・・・!)
知加子の身体に醜い痕を残そうとする時間の流れに抗うように、私は知加子の左手を掴むと、手首から肩口まで、力任せにしごきあげ、早く隅々まで血流を与えようとした。
何度もさすり上げ、皮膚の温度が上がっていくにつれ、私の額からも汗がしたたり落ちていた。驚いたような表情で私を見つめる知加子の視線にも気づかず、私は、取り憑かれたように必死だった。
ミスがミスを誘発するように、主導権のバトンを一旦落とした私は、それまで進めた周到な準備と、冷徹なまでに精緻に考えた行動のレールに戻ることはできない。
些細な失敗は、全ての終わりを意味する。それは平凡な毎日に「嵐」を起こそうとした者に課された厳しい掟である。小さな気のゆるみや、配慮を欠いたために犯した失敗が、「嵐」を想定外の大きさと方向に変え、制御不能なものに変える。
法律に触れるか否かの問題ではない。償う方法もない。
自分が起こした「嵐」に飲まれることは、その者について、「永遠の負け」を意味する。
何度こすり上げても、知加子の腕が元通りの透き通ったクリームのような美しさは戻らない。
その時点で、私が、「永遠の敗者」に向かって転がり始めたことは疑うべきも無かった。
しかし、焦るほどに「次の行動」に確信が持てなくなり、思い立っては手を止め、口に出そうとしては言葉を呑み込み、ただ、無言で立ちつくすしか無かった。
「早く・・・、手が・・・痺れて、もう、限界なの・・・」
知加子の拘束を厳しくしてから、もう1時間近くが経過している。限界と考えていた時間をゆうに超えていることに、私はその時まで気がつかなかった。
(しまった・・・!鬱血が・・・)
知加子の肘の動きを止めている縄の両側の皮膚の色が浅黒く変わってしまっている。これほど鬱血すると、痛みではなく、鈍い痺れが両腕から拡がっているはずだ。
鋭い痛みには悲鳴を上げても、鈍く、長く続く痛みには耐えてしまうのが女性特有の感覚なのか。痛みを訴えない知加子の反応に安心し、私は何十分も自分の欲望に任せて知加子を味わうことに没頭していた。
慌てて、非常用に準備していたニッパーで麻縄を切り落とし、崩れ落ちて倒れる知加子を抱きかかえると、床に寝かせ、両肘と両手首を厳しく戒めている麻縄を切断する。
沈んだ褐色に染まり始めていた二の腕と手首に、一気に血流が戻り、知加子の白い肌を急激に紫に変え始める。
(両腕に痣が残ってしまう・・・!)
知加子の身体に醜い痕を残そうとする時間の流れに抗うように、私は知加子の左手を掴むと、手首から肩口まで、力任せにしごきあげ、早く隅々まで血流を与えようとした。
何度もさすり上げ、皮膚の温度が上がっていくにつれ、私の額からも汗がしたたり落ちていた。驚いたような表情で私を見つめる知加子の視線にも気づかず、私は、取り憑かれたように必死だった。
ミスがミスを誘発するように、主導権のバトンを一旦落とした私は、それまで進めた周到な準備と、冷徹なまでに精緻に考えた行動のレールに戻ることはできない。
些細な失敗は、全ての終わりを意味する。それは平凡な毎日に「嵐」を起こそうとした者に課された厳しい掟である。小さな気のゆるみや、配慮を欠いたために犯した失敗が、「嵐」を想定外の大きさと方向に変え、制御不能なものに変える。
法律に触れるか否かの問題ではない。償う方法もない。
自分が起こした「嵐」に飲まれることは、その者について、「永遠の負け」を意味する。
何度こすり上げても、知加子の腕が元通りの透き通ったクリームのような美しさは戻らない。
その時点で、私が、「永遠の敗者」に向かって転がり始めたことは疑うべきも無かった。
この記事へのコメント
擦って欲しい・・・。
痛くて、痺れてきて、辛いのは平気。
でも、ほどいた後は優しくしてほしい。
あまやかして、大事にされて・・・。
お互いの不思議なバランスの上。
さやかは、Mにはなりえない事に納得、しました。
痛くて、痺れてきて、辛いのは平気。
でも、ほどいた後は優しくしてほしい。
あまやかして、大事にされて・・・。
お互いの不思議なバランスの上。
さやかは、Mにはなりえない事に納得、しました。
何か痕をつけるようなことをしたら、それを取り去ろうとせずにはいられないような気がします。
つけられた痕が愛おしいような気持ちになることも、受けた側としてはありますが、きっと、与えた側には複雑なのかな・・と思いながら展開してみました。
つけられた痕が愛おしいような気持ちになることも、受けた側としてはありますが、きっと、与えた側には複雑なのかな・・と思いながら展開してみました。
2006/07/02 (日) 01:00:08 | URL | cockshut #-[ 編集]
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