結局、漏斗を使って聖水を口中に導いたのは、一度きりだった。
身体がその液体を「聖水」と認識できることがわかった以上、御主人様と私の間に無機質な物体を介在させる必要はない。
私が、直接、聖水を拝受することを願わないはずがなかった。
身体がその液体を「聖水」と認識できることがわかった以上、御主人様と私の間に無機質な物体を介在させる必要はない。
私が、直接、聖水を拝受することを願わないはずがなかった。
浴室のタイルの上で寝ころんだ私は、真下から御主人様の姿を見上げる形になる。
(できるだけ、下から見上げていたい)
下僕の私が願うのは、御主人様との自分との間の「落差」を示されること。そして、その落差を御主人様が、当然のこととして振る舞うことである。
街を歩いている姿に対する、全裸。
ソファーでくつろぐ姿勢に対する、床への正座。
自由に身体のどこにでも鞭を振り下ろせる姿勢と、身じろぎできないほどに拘束された姿勢。
そして、何より常に下から見上げる視線で御主人様を注視することを私は望み続けている。かつて、SMチャットで、「M男なんだから」という理由だけで罵倒され、蔑まれる扱いに違和感を感じていた私はもうそこにはない。
やがて、暖かく柔らかな感覚が大きく開いた私の口唇を覆う。鼻腔にその薫りがたたえられた直後、柔らかく弾力のある感触が私の鼻筋を押しつぶすように呼吸を阻害し、顔の表面に密着して動きを止める。呼吸を止められた不安感が、軽い焦燥感を沸き立たせていた。
人の口の中にめがけて放尿すること、そんなことが簡単にできるはずがないことは私にもわかる。ためらい、不安、確信、そして祈り、様々な思いが秘所と顔面を密着させている私達の間に交錯し、その思いが通じた瞬間、「聖水」は私の口中に滴り始める。
私にとって、それが紛れもなく「聖水」だと、今ならはっきり行動で示すことができる。全くためらうことなく、私は断続的に流れてくる暖かな聖水をそのまま嚥下し、数滴溢れた聖水が、頬を伝って後頭部を濡らしていた。
普通の生活の中では決して喉を通るはずのない液体である「聖水」は、たとえそれが「尿」でなく「聖水」であったとしても、何の違和感もなく身体がすんなりと受け入れてくれるわけではなく、嚥下した後も、食道から染みこむような熱っぽい感覚と、口中に残るえぐ味を残し私の身体を灼き続けていた。
溢れた聖水で濡れた髪をぬぐった後、少量の水で口をすすぎ、唇を洗い清めた後、私はベッドに横たわる御主人様の元へ戻る。「禁欲」の間中私の頭を支配し続けた性衝動を、思いのまま注ぎ込む行為を許される瞬間が、今目の前に訪れていた。
ひんやりとしたシーツに身体を滑り込ませ、両手で暖かく柔らかい身体を抱きしめて全身を密着させる。その瞬間、全ての不安と苦痛が意識の中から去っていく。身体の中心から暖かい何かが溢れるような感覚と共に、哮った熱情が下腹部に集中する・・・、はずだった。
何かが、私の身体に起こっていた。
抱きしめて密着した身体が離れた後も、私の身体の中に暖かな幸福感は満ちたままで、数時間の間体内を駆けめぐり、私をあおり立てていた出口を求めて哮る熱情が、感じられない。
そういえば、かつて何度か、こういう瞬間があり、その全てで、私は男性としての性行為を全うできなかった。
(ひょっとして・・・、今日も・・・?)
戸惑いは私の両手の動きを緩慢にさせ、そのじれったさが、さらに女性の身体をじわじわと灼いて燃え上がらせていく。それと呼応するかのように、私の心の一部に現れた焦りが、次第に大きくなりはじめていた。
その9に続く。
(できるだけ、下から見上げていたい)
下僕の私が願うのは、御主人様との自分との間の「落差」を示されること。そして、その落差を御主人様が、当然のこととして振る舞うことである。
街を歩いている姿に対する、全裸。
ソファーでくつろぐ姿勢に対する、床への正座。
自由に身体のどこにでも鞭を振り下ろせる姿勢と、身じろぎできないほどに拘束された姿勢。
そして、何より常に下から見上げる視線で御主人様を注視することを私は望み続けている。かつて、SMチャットで、「M男なんだから」という理由だけで罵倒され、蔑まれる扱いに違和感を感じていた私はもうそこにはない。
やがて、暖かく柔らかな感覚が大きく開いた私の口唇を覆う。鼻腔にその薫りがたたえられた直後、柔らかく弾力のある感触が私の鼻筋を押しつぶすように呼吸を阻害し、顔の表面に密着して動きを止める。呼吸を止められた不安感が、軽い焦燥感を沸き立たせていた。
人の口の中にめがけて放尿すること、そんなことが簡単にできるはずがないことは私にもわかる。ためらい、不安、確信、そして祈り、様々な思いが秘所と顔面を密着させている私達の間に交錯し、その思いが通じた瞬間、「聖水」は私の口中に滴り始める。
私にとって、それが紛れもなく「聖水」だと、今ならはっきり行動で示すことができる。全くためらうことなく、私は断続的に流れてくる暖かな聖水をそのまま嚥下し、数滴溢れた聖水が、頬を伝って後頭部を濡らしていた。
普通の生活の中では決して喉を通るはずのない液体である「聖水」は、たとえそれが「尿」でなく「聖水」であったとしても、何の違和感もなく身体がすんなりと受け入れてくれるわけではなく、嚥下した後も、食道から染みこむような熱っぽい感覚と、口中に残るえぐ味を残し私の身体を灼き続けていた。
溢れた聖水で濡れた髪をぬぐった後、少量の水で口をすすぎ、唇を洗い清めた後、私はベッドに横たわる御主人様の元へ戻る。「禁欲」の間中私の頭を支配し続けた性衝動を、思いのまま注ぎ込む行為を許される瞬間が、今目の前に訪れていた。
ひんやりとしたシーツに身体を滑り込ませ、両手で暖かく柔らかい身体を抱きしめて全身を密着させる。その瞬間、全ての不安と苦痛が意識の中から去っていく。身体の中心から暖かい何かが溢れるような感覚と共に、哮った熱情が下腹部に集中する・・・、はずだった。
何かが、私の身体に起こっていた。
抱きしめて密着した身体が離れた後も、私の身体の中に暖かな幸福感は満ちたままで、数時間の間体内を駆けめぐり、私をあおり立てていた出口を求めて哮る熱情が、感じられない。
そういえば、かつて何度か、こういう瞬間があり、その全てで、私は男性としての性行為を全うできなかった。
(ひょっとして・・・、今日も・・・?)
戸惑いは私の両手の動きを緩慢にさせ、そのじれったさが、さらに女性の身体をじわじわと灼いて燃え上がらせていく。それと呼応するかのように、私の心の一部に現れた焦りが、次第に大きくなりはじめていた。
その9に続く。
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