翌日、そしてその翌日も、「彼」の部屋は待機中と会話中のステータスを交互に行き来し、私はそれを暫くの間眺めていた。
(なかなか・・・、目当ての人は来ないみたいだな・・・)
少なくとも、身勝手な性欲のはけ口にされるよりは、「彼」の望む世界をかいま見せてもらう方がずっと興味深い。「強制退出」させられる条件はわかっているのだから、その地雷を踏まないように歩きながら様子を伺うことはできるはずだった。
最初の時よりどきどきしながら、入室ボタンを押した。
(なかなか・・・、目当ての人は来ないみたいだな・・・)
少なくとも、身勝手な性欲のはけ口にされるよりは、「彼」の望む世界をかいま見せてもらう方がずっと興味深い。「強制退出」させられる条件はわかっているのだから、その地雷を踏まないように歩きながら様子を伺うことはできるはずだった。
最初の時よりどきどきしながら、入室ボタンを押した。
「はじめまして」
「入室コメント、読んでいただけましたか?」
(来た・・・!やっぱり、同じことを誰にでも確認するんだ)
「あ、はい・・・、もちろん、ご趣味があれば、ですが・・・」
「そうですか、どうしても譲れない条件なので、了承いただけないようでしたら、ご退出ください」
最初の時と、同じことを同じように確認された。
「基本的には、了承したいと思います、あとは・・・、お互いに条件があえば・・・と思っています」
「ええ、それはもちろんですね」
第一関門は、突破できたらしい。うまく、会話を始めることができた。
「彼」には、自分の部屋には他人を呼べない事情があった。私は一人暮らしだったから、「彼」の条件にはぴったりだったと思う。
自分の身分証明書を見せることすら認めてでも実現したかった「監禁」とは、文字通り、身体を動かせないように縛り、一人で部屋に残したまま長時間放置する、というもので、実際、不慮の事故が起きれば重大な危険が生じるに違いなかった。
(どうして「女装M」でそれを実現したいんだろう?)
(どうして、長時間自由を奪ってみたいんだろう?)
(女性のパートナーはいるんだろうか?)
「彼」に聞きたいことは沢山あった。それだけ、「彼」の世界観は確立されていたし、どんなMをそこに当てはめたいのかもはっきりしていた。
問題は、「監禁」を行うのが自分の指定したところではなく、監禁される者の自室だ、という部分である。私は、リアルの自分と、女装しているときの自分を結びつけられてしまうことを恐れていた。
表の世界の自分が「女装」という変態趣味のある人間だと見抜かれることは、私には耐え難いリスクだったし、拘束されたままでは、部屋の中で何をされるか、信じろと言われても信じることはできなかった。
「それで・・・、どうしましょうか・・・」
ついに、会話は核心を突き、私は、また、躊躇するしか無かった。何度か、両側からコメントを書いてしまったように装いながら、それでも何度かは話しをはぐらかしながら、「彼」のことをなるべく深く探ってみたいと思っていた。
「あの・・・、私、先日、退出させられてしまった者なんです・・・」
話題を繕うことができなくなり、私はついに本当のことを告げた。
「そうでしたか・・・、困った方ですね、私の条件のことはご存じなのに。さあ、早くご退出ください」
「・・・」
私は、どうしても「監禁」を受けてみたいと思っていること、自室で拘束されることへの不安、そして、自分が今どういう「S」を探しているかを確認したかったこと、「彼」の返答を待たずに堰を切ったように文字を入力し続けていた。
いわゆる「ホテルでのSMプレイ」には興味がないのだ、と「彼」は言った。私は、逆にその時点では「SMプレイ」の経験がほとんど無かったから、自分がどういう「M」になれるのか、また、本当にMなのかどうかを認識できていなかった。そんな状態で、もし「彼」が気変りでもしたことを考えれば、自宅の住所を教えることはどうしても避けたかった。
「信じてください」
何度も、言われた。けれど、絶対に自室は不可能だ。30分以上、話しつづけ、やっとホテルででも、という返事を引き出した時、時間は既に深夜になっていた。
「入室コメント、読んでいただけましたか?」
(来た・・・!やっぱり、同じことを誰にでも確認するんだ)
「あ、はい・・・、もちろん、ご趣味があれば、ですが・・・」
「そうですか、どうしても譲れない条件なので、了承いただけないようでしたら、ご退出ください」
最初の時と、同じことを同じように確認された。
「基本的には、了承したいと思います、あとは・・・、お互いに条件があえば・・・と思っています」
「ええ、それはもちろんですね」
第一関門は、突破できたらしい。うまく、会話を始めることができた。
「彼」には、自分の部屋には他人を呼べない事情があった。私は一人暮らしだったから、「彼」の条件にはぴったりだったと思う。
自分の身分証明書を見せることすら認めてでも実現したかった「監禁」とは、文字通り、身体を動かせないように縛り、一人で部屋に残したまま長時間放置する、というもので、実際、不慮の事故が起きれば重大な危険が生じるに違いなかった。
(どうして「女装M」でそれを実現したいんだろう?)
(どうして、長時間自由を奪ってみたいんだろう?)
(女性のパートナーはいるんだろうか?)
「彼」に聞きたいことは沢山あった。それだけ、「彼」の世界観は確立されていたし、どんなMをそこに当てはめたいのかもはっきりしていた。
問題は、「監禁」を行うのが自分の指定したところではなく、監禁される者の自室だ、という部分である。私は、リアルの自分と、女装しているときの自分を結びつけられてしまうことを恐れていた。
表の世界の自分が「女装」という変態趣味のある人間だと見抜かれることは、私には耐え難いリスクだったし、拘束されたままでは、部屋の中で何をされるか、信じろと言われても信じることはできなかった。
「それで・・・、どうしましょうか・・・」
ついに、会話は核心を突き、私は、また、躊躇するしか無かった。何度か、両側からコメントを書いてしまったように装いながら、それでも何度かは話しをはぐらかしながら、「彼」のことをなるべく深く探ってみたいと思っていた。
「あの・・・、私、先日、退出させられてしまった者なんです・・・」
話題を繕うことができなくなり、私はついに本当のことを告げた。
「そうでしたか・・・、困った方ですね、私の条件のことはご存じなのに。さあ、早くご退出ください」
「・・・」
私は、どうしても「監禁」を受けてみたいと思っていること、自室で拘束されることへの不安、そして、自分が今どういう「S」を探しているかを確認したかったこと、「彼」の返答を待たずに堰を切ったように文字を入力し続けていた。
いわゆる「ホテルでのSMプレイ」には興味がないのだ、と「彼」は言った。私は、逆にその時点では「SMプレイ」の経験がほとんど無かったから、自分がどういう「M」になれるのか、また、本当にMなのかどうかを認識できていなかった。そんな状態で、もし「彼」が気変りでもしたことを考えれば、自宅の住所を教えることはどうしても避けたかった。
「信じてください」
何度も、言われた。けれど、絶対に自室は不可能だ。30分以上、話しつづけ、やっとホテルででも、という返事を引き出した時、時間は既に深夜になっていた。
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