「そこの机に、両手をそろえておいてごらん、美恵」
「ご、ごめんなさい・・・許して・・・、許してくださいッ」
「俺が妥協をする男じゃないってことは、御前が一番わかってるだろう?従うのか、逆らうのか、どちらかしか選べないんだ。それとも俺を従えることができるか?」
「・・・、い、いいえ・・・。」
おずおずと机に白い手を差し出す美恵。白く細長い指が、心なしか手が震えているように見える。
「よし、きちんと揃えるんだ。動かす自由は与えないからね。」
ビッ!と空気を切り裂く音が聞こえたかと思うと、同じ瞬間、美恵の高い悲鳴が耳に届いた。
「ヒイッ!あッ・・・!、あっーーッううッ!」
耳を裂くような悲鳴が、部屋の中に響く。縛られていなければ、耳を塞ぎたくなるような動物的な声。いつも理知的な美恵の姿からは、一度も想像したことのない声だ。
男は続けざまに3度、同じように空気を裂き、一瞬遅れて美恵の声が別の角度から空気を裂いて揺らした。
「キャッ、ああっ!、ぅあっ・・・!」
「動かすなといってるんだ。いつまでも終わらないよ」
空気を切り裂く音の応酬が、何度も何度も続く。
執拗な打擲を、美恵に対して男が加えていることがわかる。美恵は、ついに嗚咽を漏らし始めた。
「まだだ。甘えるんじゃない」
「ううッ・・・、う・・・は・・・い・・・」
それでも、まだ、打たれる。
「ああうッ!・・・、くうッ!、ご、ごめんなさいっ・・・許して、許してくださいっ」
涙声で聞き取れないような返事を、喉から搾り出す。
男が、美恵にとっての「主人」であることが、いやでも知らされた。
残忍な男である。そして、私に何をしようというのか・・・。由梨は混乱した。
数十回の悲鳴と打撃音の後、男は静かに口を開いた。
「さぁお嬢ちゃん、そろそろ出番だよ。寂しかったかな?」
「君のご主人様は、まだまだ半人前だからね。一人前になるには、いい奴隷を育てることが一番の薬だから、君の出来具合を見て、美恵への評価を決めようかと思う。出来次第では・・・さっきみたいなことになるから。覚悟したほうがいいよ。」
(覚悟・・・)
そう言われても、混乱している由梨にはまるで届かない。さっきまでの興奮は既に冷め、硬く縛られてほてった体は、冷や汗で固められたように縮こまっていた。
「そんなに怖がるな。厳しいだけがSじゃない」
美恵とは比べ物にならない硬い手のひらが、由梨の熱い部分に触れる。生理的な悪寒が走るが、威圧感に圧されて拒むことはできない。
「身動きができない中で、見知らぬ男に触られるのは怖いだろう?怖い、という気持に素直になってごらん。たとえようもなく不安になるまで、自分を解放するんだ」
(怖い・・・っ、怖い・・・怖い!)
由梨は心から男を恐れた。容赦のない美恵への鞭打ちの音、硬い手のひら、そして何よりも反論を許さない張りのある声。由梨は自分の身体が震えはじめていることを感じた。
「御前は俺の力でどうにでもされてしまう立場なんだ。反論できないってことは怖いだろう?俺は、御前をいくらでも握りつぶすことができる。だが、そうしない。なぜか考えてみろ」
(何を考えているの・・・わからない・・・)
由梨には男の言葉はまだ理解できない。ただ恐怖だけが身体をしびれさせていた。無言の緊張感が辺りを支配し、美恵の嗚咽だけが、ただ響いていた。
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