「O-86 空圧式ペニス責具」、「A-83 ソフトアイカフ」、「A-10 バイトギャグ」、器具の入ったパッケージには、無機質なゴム印で、名称が押されていた。
目の前に並んだ道具を、ひとつひとつ手に取って確かめた「彼」は、うん、と一言頷くと、私の目の前にかがみ、正座した私の眼をのぞき込んだ。
「それじゃ、始めようか」
「はい・・・」
喉奥を詰まらせるようにしながら、女性を演じようとしていた。
目の前に並んだ道具を、ひとつひとつ手に取って確かめた「彼」は、うん、と一言頷くと、私の目の前にかがみ、正座した私の眼をのぞき込んだ。
「それじゃ、始めようか」
「はい・・・」
喉奥を詰まらせるようにしながら、女性を演じようとしていた。
「最初に、誓約書にサインしてもらおうか」
「はい・・・」
「二通作って、別に、一通は貴方の好きにしていい。一通は私が保管しておくから、いいね?」
「はい・・・」
「彼」にとっては奴隷誓約書、と書かれたその紙へサインすることが、すべての始まりだったのだろう。最初から、「監禁」を実行するために、相手の家を指定した「彼」のこだわりは、ひとつひとつ、段階を踏んで人から奴隷へと墜ちていく過程を楽しむことに向けられていたのかもしれない。
「名前は偽名でいいよ。でも、名字は本名を書いてもらう」
「・・・」
しばらく、考えた。
男性から女装する間、「彼」に本当の姿を見せなかったのは、恥ずかしいというよりは自衛のためだった。名字であっても、本当の姿の一部を晒すことには違いない。敢えてそこまでする必要があるか、それともないのか、私は、奴隷誓約書の前で、ほんの少し、躊躇した。
無言の時間が、しばらく流れる。
私は、ペンで自分の名字を書き、名前に、女装している時に使う名前を、書いた。
女装する時の名前を、自分のお気に入りの名前に決めている人はきっと多いだろう。そのときの私は、女装した時の自分がどんな「女」になるのか考えていなかったし、好きな女優や有名人の名前にするには自分の容姿に自信がなかったから、特に決めている名前を考えていなかった。
ふと、思いついたのは、Netmeetingを使っていたとき、女装した私を責め続けた、「r」の名前だった。気まぐれに着けた名前を公開し、「r」とだけ記入された名前でかかるコールを待ち続けてたいた時期が、確かにあり、そしてその頃にはもうコールがかかることはなくなっていた。
確か一度聞かせてもらった名前を、漢字で書くと、本名の自分と、女装して自分を隠した自分の姿を知っている女性の名前が重なり、不思議な気持ちになった。
「印を、押してもらわないと」
「えっ?」
「印。どこで押すのが一番ちょうどいいと思う?」
「え・・・、えっ・・・と」
「女性だったら、大切なところで押して貰ったりするね。マン拓、とかいうでしょう?貴方だったら、どこがふさわしいと思うの?」
「・・・・」
分かっているのに、答えに窮した。
「早く」
「お尻・・・でしょうか・・・」
「そうだね。じゃ、向こうを向くんだ」
さっき身につけたばかりのスカートを「彼」に向けると、両手でまくり上げ、ストッキングとショーツをまとめてつかまれ、一気にお尻を剥き出しにされる。
(・・・・ッ・・・、はずかしい・・・)
自分をまともに見られる恥ずかしさに、身体の芯がゾク、ッと震える。
「手入れが行き届いてないな」
すぼまった蕾のようなそこの周囲に、カミソリの刃を当てるのは難しく、「彼」が命じたように完全な処理をすることができなかった私の慢心を、はじめから指摘され、紅潮していた昂ぶりに水をかけられたように羞恥心が沸き立った。
「申し訳・・・ありません・・・」
「手入れを怠るということが恥ずかしいと思わないような女は女じゃない」
「はい・・・」
「次から、気をつけるんだね」
言い終わらないうちに、私の化粧ポーチから取り出した真っ赤な口紅を開くと、すぼまったままの私に塗りつけ始め、しっかりと、誓約書の名前へ、「印」を写し取られた。
約束通り一枚を私に渡すと、もう一枚を大切そうに鞄にしまった。
(あれ、どうするんだろう・・・)
ただ、それが不思議だった。
| ホーム |