「や・・・、やめて・・・、酷いことはしないで・・・」
鈍く光るカッターナイフの細い刃を、ストレートロングの黒髪の先に近づける。左手でその髪をひとつまみ掴み、彼女の目の前で切り取る。
鈍い切断音を発して、刃が髪の毛を裁ち落とす。
「や・・・、やめてっ・・・!、やめてったら・・・!」
もう何年も、毎日何時間も私たちは机を並べて仕事をしている。拒否を訴える口調も、見知らぬ者に対するものとは違っているはずだった。
必死で訴えれば届く、受け入れられるはず・・・。
厳格な両親と、穏やかで純真な人々に囲まれて育った彼女には、その願いが届かない人間がいることなど、信じられないだろう。
「純、って字と、鈍って言う字は似ていますよね・・・。」
彼女は、まだ、私の想いに気がついていない。
何度かふわりと彼女の薫りが鼻をくすぐる度、私は身体の芯まで劣情を刺激され、しばらく机の上の書類が目に入らない状態に、何度なっただろう。
(いくら伝えても、受け入れてもらえない疼痛を、これからしっかり、味わってもらうのだから・・・)
鈍く光るカッターナイフの細い刃を、ストレートロングの黒髪の先に近づける。左手でその髪をひとつまみ掴み、彼女の目の前で切り取る。
鈍い切断音を発して、刃が髪の毛を裁ち落とす。
「や・・・、やめてっ・・・!、やめてったら・・・!」
もう何年も、毎日何時間も私たちは机を並べて仕事をしている。拒否を訴える口調も、見知らぬ者に対するものとは違っているはずだった。
必死で訴えれば届く、受け入れられるはず・・・。
厳格な両親と、穏やかで純真な人々に囲まれて育った彼女には、その願いが届かない人間がいることなど、信じられないだろう。
「純、って字と、鈍って言う字は似ていますよね・・・。」
彼女は、まだ、私の想いに気がついていない。
何度かふわりと彼女の薫りが鼻をくすぐる度、私は身体の芯まで劣情を刺激され、しばらく机の上の書類が目に入らない状態に、何度なっただろう。
(いくら伝えても、受け入れてもらえない疼痛を、これからしっかり、味わってもらうのだから・・・)
「ねえっ・・・、い・・・っ、痛いの・・・、手首・・・」
全ての体重を、手首だけで支えて吊られる苦痛は、実際にされた者でなければ分からないだろう。
「自分の体重が自分を苛む、苦しかったら、左足で立っていればいいことです。そのための、ヒールでしょう?」
彼女はいつも、ヒールの高い靴は履いていない。先ほど引きはがしたサンダルも、女性のものとしてはごく一般的な高さに過ぎない。爪先立っても届かない微妙な高さになるように、更につり上げている縄を強く引き、固定する。
「痛ッ・・・、痛いッ・・・!」
私には、その痛みが分かっている。
身体を捩る力も徐々に奪われているはずなのに、まだそれに抵抗しようとする彼女、それが、私に対する嫌悪感から発せられているのか、自分の羞恥心から発されているのかを確かめてみたい。
恐怖を感じさせるためのカッターナイフも、あえて本当の意図を隠すつぶやきも、そのための小道具でしかない。自分一人で完結できないような感覚を彼女に与え、その感情を自分へ向かわせることを、私は望んでいる。
彼女の背中に回り、柔らかで艶のある黒髪を、手櫛でそっとといていく。髪に手が触れた瞬間、びくっ、と彼女は背中を震わせる。
「どうしました?・・・?」
「嫌・・・、嫌・・・」
首を左右に振り、髪を触られまいとする。
(もっと、もっと嫌がらせてやる・・・)
反対の手を、麻縄で固められた細い首に置き、人差し指と親指で左の耳たぶを摘む。
「ンッ・・・、あっ!」
人の動きを阻むために、強い力は必要ない。
柔らかい部分、弱い部分に意識を集中させるために、指で摘んだ柔らかな耳たぶを、左回りに親指を動かして感触を味わう。女性特有の、どこまでも柔らかな肉の感触が、指先から私の身体を貫く。
(もっと、もっと触りたい・・・、全て、全てを・・・!)
一気に鼓動が早くなる。どうして、彼女の身体は、こんなにも私を昂ぶらせるのだろう。
望まない相手とはいえ、身体を触られることで、彼女の身体には、自分を優しく触れる存在が現れたことを示すスイッチが入ったはずだ。
視覚と想像で昂奮を高め、触感で終了する男性の性と、あくまでも触感から始まる女性の性とは根本的に違っている。しかし、彼女はそれを知らないだろう。
もう一方の手で、反対側の耳を、同時にそっと撫でていく。
「フッ・・・、くっ・・・う・・・やめてっ・・・やめ・・・」
前に回り、快感を感じ始めるその瞬間の顔を見てみたい。
しかし、私が何を望んでいるのか、安易に悟られることを私は好まない。本当に伝えたい、本当に分からせたいことが、もっとずっと先にあるのだから。
今はただ、丁寧に、しつこく、新鮮な指の感触を彼女の両耳に与えることだけに意識を集中する。
彼女の頭頂部に鼻を近づけて、その薫りを嗅ぐ。先ほどからの抵抗で、やっと汗の薫りが立ち始めていた。
高鳴る鼓動で、心臓が肥大したような気さえする。自分の欲望の限りを、ここで彼女にぶつける期待と不安が、私を支配していた。
全ての体重を、手首だけで支えて吊られる苦痛は、実際にされた者でなければ分からないだろう。
「自分の体重が自分を苛む、苦しかったら、左足で立っていればいいことです。そのための、ヒールでしょう?」
彼女はいつも、ヒールの高い靴は履いていない。先ほど引きはがしたサンダルも、女性のものとしてはごく一般的な高さに過ぎない。爪先立っても届かない微妙な高さになるように、更につり上げている縄を強く引き、固定する。
「痛ッ・・・、痛いッ・・・!」
私には、その痛みが分かっている。
身体を捩る力も徐々に奪われているはずなのに、まだそれに抵抗しようとする彼女、それが、私に対する嫌悪感から発せられているのか、自分の羞恥心から発されているのかを確かめてみたい。
恐怖を感じさせるためのカッターナイフも、あえて本当の意図を隠すつぶやきも、そのための小道具でしかない。自分一人で完結できないような感覚を彼女に与え、その感情を自分へ向かわせることを、私は望んでいる。
彼女の背中に回り、柔らかで艶のある黒髪を、手櫛でそっとといていく。髪に手が触れた瞬間、びくっ、と彼女は背中を震わせる。
「どうしました?・・・?」
「嫌・・・、嫌・・・」
首を左右に振り、髪を触られまいとする。
(もっと、もっと嫌がらせてやる・・・)
反対の手を、麻縄で固められた細い首に置き、人差し指と親指で左の耳たぶを摘む。
「ンッ・・・、あっ!」
人の動きを阻むために、強い力は必要ない。
柔らかい部分、弱い部分に意識を集中させるために、指で摘んだ柔らかな耳たぶを、左回りに親指を動かして感触を味わう。女性特有の、どこまでも柔らかな肉の感触が、指先から私の身体を貫く。
(もっと、もっと触りたい・・・、全て、全てを・・・!)
一気に鼓動が早くなる。どうして、彼女の身体は、こんなにも私を昂ぶらせるのだろう。
望まない相手とはいえ、身体を触られることで、彼女の身体には、自分を優しく触れる存在が現れたことを示すスイッチが入ったはずだ。
視覚と想像で昂奮を高め、触感で終了する男性の性と、あくまでも触感から始まる女性の性とは根本的に違っている。しかし、彼女はそれを知らないだろう。
もう一方の手で、反対側の耳を、同時にそっと撫でていく。
「フッ・・・、くっ・・・う・・・やめてっ・・・やめ・・・」
前に回り、快感を感じ始めるその瞬間の顔を見てみたい。
しかし、私が何を望んでいるのか、安易に悟られることを私は好まない。本当に伝えたい、本当に分からせたいことが、もっとずっと先にあるのだから。
今はただ、丁寧に、しつこく、新鮮な指の感触を彼女の両耳に与えることだけに意識を集中する。
彼女の頭頂部に鼻を近づけて、その薫りを嗅ぐ。先ほどからの抵抗で、やっと汗の薫りが立ち始めていた。
高鳴る鼓動で、心臓が肥大したような気さえする。自分の欲望の限りを、ここで彼女にぶつける期待と不安が、私を支配していた。
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