「人は、最初に会った数十秒で、初めて会った人の印象を決定する」
面接や、プレゼンの研修の度に誰かから聞かされるそんな「法則」は、文字だけでしかコミュニケーションの成り立たないチャットの空間にも存在するのだろうか?
実際、「自分は初対面の人間でも、会ってすぐに見抜くことができる」と豪語する人もいる。私は自分にそんな力はない、と思っているけれど、「仮面舞踏会」で黄色い文字を使う女性に惹かれるまで時間がかからなかったことは確かだった。
面接や、プレゼンの研修の度に誰かから聞かされるそんな「法則」は、文字だけでしかコミュニケーションの成り立たないチャットの空間にも存在するのだろうか?
実際、「自分は初対面の人間でも、会ってすぐに見抜くことができる」と豪語する人もいる。私は自分にそんな力はない、と思っているけれど、「仮面舞踏会」で黄色い文字を使う女性に惹かれるまで時間がかからなかったことは確かだった。
彼女が、自分をプロデュースすることに対する天賦の才を持っていたというわけではなく、私は彼女が、私が立ちすくんでいた「リアルなSMの世界」への固い扉を開いてくれるような気がしたからだと、今では思っている。
あれほどツーショットダイヤルで問われた「経験」を彼女は豊富に持っていたから、一本鞭とバラ鞭の感触がどのくらい違うのか、そして、私が頭の中で妄想していることは、考えていることの道筋、SM的な主従の観点から言えば正しいことなのか、疑問だったことは全て彼女に打ち明けた。
正されたことは数え切れない。それだけ、経験が裏打ちするものは大きかった。
何の経験も無かった私だったけれど、すぐに、彼女の姿をチャットで見つければ、心の底から彼女を仰ぎ見るようになった。特に奴隷だと指名されることは無かったけれど、自然に正座をしてチャットをするようになっていたし、彼女が他の参加者と楽しそうに話している会話のやりとり一つ一つを眺めては、自分が「Mとして」そこに存在するためにはどうしたらいいかを考え続けた。
私はタイピングが人よりも速かったから、その気になれば会話をリードするほどの分量のコメントを流し込むこともできた。しかし、Mの、しかも男性がその場でペラペラと自分のSM観を披露したり、S女性への憧れを垂れ流すことは分をわきまえない行為だと思った。
控えめで、でも黙って見ている訳でもない、私はそんな存在になろうと決め、それを続けた。
参加者のほとんどが私より年上で、そして、SMに対して苦悩した期間も長い人が多かった。それだけSMは特異な性癖で、一般的で無かったし、同時に、人は年令を経るに従い、現実世界で担う役割が大きく、重くなっていくことをまざまざと思い知らされたような気がする。
そして、数週間がすぎるころ、自然に、参加者の間で相性が合うカップルが何組か現れ始めた。
時間を決めて、チャットを通じてSはMに対して行為を命じ、Mはそれに答えながら、会話は続けられた。
【仮面舞踏会】は、急速に、主宰の方が思い描いた通り、SMに熱く吸い寄せられた人々のサロンのようになっていった。チャットで主従の関係を結ぶ前から、周囲の参加者が二人のやりとりを雑談の間で見ることができたし、Sの心得違い、Mの至らなさを、他の参加者が指摘する機会も増えた。
「エセS」や「エゴM」と言われる人たちは、そうした指摘を受け入れることが無かったから、すぐに居場所を失っていった。
独りよがり、一人悩み、になりがちなSMの趣味を、そこでは正しい方向に進めていくことができたような気がする。そんな、幸運な場所に一席を与えられた私は、どんどんのめり込みでいた。
彼女が私を特別なM男性として扱うようになっていったのは、そんな時期だった。
あれほどツーショットダイヤルで問われた「経験」を彼女は豊富に持っていたから、一本鞭とバラ鞭の感触がどのくらい違うのか、そして、私が頭の中で妄想していることは、考えていることの道筋、SM的な主従の観点から言えば正しいことなのか、疑問だったことは全て彼女に打ち明けた。
正されたことは数え切れない。それだけ、経験が裏打ちするものは大きかった。
何の経験も無かった私だったけれど、すぐに、彼女の姿をチャットで見つければ、心の底から彼女を仰ぎ見るようになった。特に奴隷だと指名されることは無かったけれど、自然に正座をしてチャットをするようになっていたし、彼女が他の参加者と楽しそうに話している会話のやりとり一つ一つを眺めては、自分が「Mとして」そこに存在するためにはどうしたらいいかを考え続けた。
私はタイピングが人よりも速かったから、その気になれば会話をリードするほどの分量のコメントを流し込むこともできた。しかし、Mの、しかも男性がその場でペラペラと自分のSM観を披露したり、S女性への憧れを垂れ流すことは分をわきまえない行為だと思った。
控えめで、でも黙って見ている訳でもない、私はそんな存在になろうと決め、それを続けた。
参加者のほとんどが私より年上で、そして、SMに対して苦悩した期間も長い人が多かった。それだけSMは特異な性癖で、一般的で無かったし、同時に、人は年令を経るに従い、現実世界で担う役割が大きく、重くなっていくことをまざまざと思い知らされたような気がする。
そして、数週間がすぎるころ、自然に、参加者の間で相性が合うカップルが何組か現れ始めた。
時間を決めて、チャットを通じてSはMに対して行為を命じ、Mはそれに答えながら、会話は続けられた。
【仮面舞踏会】は、急速に、主宰の方が思い描いた通り、SMに熱く吸い寄せられた人々のサロンのようになっていった。チャットで主従の関係を結ぶ前から、周囲の参加者が二人のやりとりを雑談の間で見ることができたし、Sの心得違い、Mの至らなさを、他の参加者が指摘する機会も増えた。
「エセS」や「エゴM」と言われる人たちは、そうした指摘を受け入れることが無かったから、すぐに居場所を失っていった。
独りよがり、一人悩み、になりがちなSMの趣味を、そこでは正しい方向に進めていくことができたような気がする。そんな、幸運な場所に一席を与えられた私は、どんどんのめり込みでいた。
彼女が私を特別なM男性として扱うようになっていったのは、そんな時期だった。
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