「ちょっと待って!、待って!!」
背中を向けて部屋から出て行く姿に向かって、何度も悲鳴に近い声で叫んだ。取り合わずに出て行った後には、外側から機械錠が掛けられる音が低く響くだけだった。
静寂と暗闇が、知加子の周囲に戻る。
「うう・・・、ど・・・どうして・・・どうしてこんな・・・ことっ・・・」
呟く声に答える者は、誰もいるはずが無かった。
背中を向けて部屋から出て行く姿に向かって、何度も悲鳴に近い声で叫んだ。取り合わずに出て行った後には、外側から機械錠が掛けられる音が低く響くだけだった。
静寂と暗闇が、知加子の周囲に戻る。
「うう・・・、ど・・・どうして・・・どうしてこんな・・・ことっ・・・」
呟く声に答える者は、誰もいるはずが無かった。
両手を苛む麻縄の苦痛は、爪先にどれだけ力を入れても、ほんの数秒和らげるのがやっとだった。
両親の愛情を惜しみなく注がれて大切に育てられた知加子には、人の悪意を思い切りぶつけられたことなど無く、ましてや女の柔らかな肌を麻縄で縛り付けようとする人間が存在することなど信じられるはずもなかった。
しかし、苦痛は一時も休み無く、両手から身体の芯まで広がり続けていた。動悸が速まり、息苦しさから逃れようと呼吸は速く、浅くなったせいでさらに苦しさを感じさせていた。
「誰かッ!誰かァッ!」
喉の奥にくぐもった涙声を包みながら、あらん限りの声で助けを呼ぶ。隙間無く張られた壁面の吸音板は、簡単にその声を飲みこみ、残響音も残さずに静寂を取り戻す。空調機が静かに動く低い機械音だけしか、耳には入らない。
(このまま誰も来なかったら・・・)
貴重書庫に入ることを許されているのは、総務課の中でも一握りの社員しかおらず、知加子自身、入室のための手順を知らされてはいなかった。水も漏らさぬ厳密な情報管理体制、と社内で高らかに宣言していた担当役員の顔が思い出された。
今や、その鉄壁の自分を助け出す心ある者へ届くまでの希望すら、遮断しているように思えた。
恐怖心が身体を貫き、背中に一筋冷たい汗が流れていく。麻縄が送り込んでくる苦痛は、一瞬たりともやまずに肌を苛み続け、身体を支えている爪先から一瞬でも意識が離れた瞬間、激しい痛みが腕から身体に染みこんでくる。
(早く・・・、早く戻ってきて・・・)
苦痛からの解放を願い、知加子は私を求め、私は知加子にさらなる苦痛を味あわせるために彼女を置き去りにした。もちろん、知加子を見放して身体に傷をつけようとは思っていない。あくまでも、私は知加子を激しく求めているのだから。
今や、知加子と私はお互いに求め合っている。しかし、その感情は遠く離れた恋人同士が抱く恋慕の感情とは違っていた。
「そろそろ・・・、かな・・・」
喫煙室でセーラムを1本吸い終わると、私はもう一度ゆっくりと知加子の元に戻っていく。冷たい床の塩ビタイルに、革靴の足音が響く。
(自分に向かって足音が近づいてくるのを、聞かせてやりたいが・・・)
完全に防音された貴重書庫を選んだのは、もちろん声が漏れないためだったが、この足音を聞かせられないのは誤算だった。きっと、私が近づく足音が、今の知加子には救いの音に聞こえるはずなのだから・・・。
そして、その安堵の気持ちが間違いであることを、心と体の奥底から気づかせたい。屈折としかいいようのない恋慕の感情がわき上がっていることを、私以外の誰も理解できないだろう。
「ククッ・・・、ふふ・・・っ」
わき上がる期待と昂奮で、口元が自然にゆるんでくるのを、私は止めることができないでいた。
両親の愛情を惜しみなく注がれて大切に育てられた知加子には、人の悪意を思い切りぶつけられたことなど無く、ましてや女の柔らかな肌を麻縄で縛り付けようとする人間が存在することなど信じられるはずもなかった。
しかし、苦痛は一時も休み無く、両手から身体の芯まで広がり続けていた。動悸が速まり、息苦しさから逃れようと呼吸は速く、浅くなったせいでさらに苦しさを感じさせていた。
「誰かッ!誰かァッ!」
喉の奥にくぐもった涙声を包みながら、あらん限りの声で助けを呼ぶ。隙間無く張られた壁面の吸音板は、簡単にその声を飲みこみ、残響音も残さずに静寂を取り戻す。空調機が静かに動く低い機械音だけしか、耳には入らない。
(このまま誰も来なかったら・・・)
貴重書庫に入ることを許されているのは、総務課の中でも一握りの社員しかおらず、知加子自身、入室のための手順を知らされてはいなかった。水も漏らさぬ厳密な情報管理体制、と社内で高らかに宣言していた担当役員の顔が思い出された。
今や、その鉄壁の自分を助け出す心ある者へ届くまでの希望すら、遮断しているように思えた。
恐怖心が身体を貫き、背中に一筋冷たい汗が流れていく。麻縄が送り込んでくる苦痛は、一瞬たりともやまずに肌を苛み続け、身体を支えている爪先から一瞬でも意識が離れた瞬間、激しい痛みが腕から身体に染みこんでくる。
(早く・・・、早く戻ってきて・・・)
苦痛からの解放を願い、知加子は私を求め、私は知加子にさらなる苦痛を味あわせるために彼女を置き去りにした。もちろん、知加子を見放して身体に傷をつけようとは思っていない。あくまでも、私は知加子を激しく求めているのだから。
今や、知加子と私はお互いに求め合っている。しかし、その感情は遠く離れた恋人同士が抱く恋慕の感情とは違っていた。
「そろそろ・・・、かな・・・」
喫煙室でセーラムを1本吸い終わると、私はもう一度ゆっくりと知加子の元に戻っていく。冷たい床の塩ビタイルに、革靴の足音が響く。
(自分に向かって足音が近づいてくるのを、聞かせてやりたいが・・・)
完全に防音された貴重書庫を選んだのは、もちろん声が漏れないためだったが、この足音を聞かせられないのは誤算だった。きっと、私が近づく足音が、今の知加子には救いの音に聞こえるはずなのだから・・・。
そして、その安堵の気持ちが間違いであることを、心と体の奥底から気づかせたい。屈折としかいいようのない恋慕の感情がわき上がっていることを、私以外の誰も理解できないだろう。
「ククッ・・・、ふふ・・・っ」
わき上がる期待と昂奮で、口元が自然にゆるんでくるのを、私は止めることができないでいた。
この記事へのコメント
コメントができない。。。
ご主人様の、口元が自然に緩んでキ○ガイじみた笑みに魅せられた私を思い出しました
ご主人様の、口元が自然に緩んでキ○ガイじみた笑みに魅せられた私を思い出しました
これは、ぶっちゃけ
さやかの大好きな展開であります。
これくらい念入りに、ネチネチとされると
しても、されても、いい具合に違いないです。
この伏線の具合もなかなかに楽しみです。
さやかの大好きな展開であります。
これくらい念入りに、ネチネチとされると
しても、されても、いい具合に違いないです。
この伏線の具合もなかなかに楽しみです。
コメントありがとうございます!
書いてる私も、焦らしている間に体温が上昇してしまっているのですが、何とか鎮めて、その分を爆発させようと我慢しています(^^)
伏線の後は、賛否両論だと思いますが、その時に爆発する予定です(^^)
書いてる私も、焦らしている間に体温が上昇してしまっているのですが、何とか鎮めて、その分を爆発させようと我慢しています(^^)
伏線の後は、賛否両論だと思いますが、その時に爆発する予定です(^^)
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