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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
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妄想を展開する【08】
 こみ上げる笑みを抑えることもせず、私は書庫の入り口にある、電気錠にIDカードを通す。ここへの入室権限がもしなかったら、この企みが成功することは無かっただろう。

(情けは人のためならず。信頼は得ておくもの、だな・・・)

 若手から中堅社員と呼ばれる間、私は「まじめすぎるくらいまじめな」人間と評されてきた。打算的にならず、自分がすべき役割をわきまえ、人が嫌がることに率先して手を挙げてきた。

 時にはそれが点数稼ぎに思われることもあったかもしれない。しかし、それも、首尾行動を一貫することによって周囲はその疑念を信頼に変えていった。

 その結果が、今日の、知加子なのだ。

 (落ち着け・・・、落ち着くんだ・・・)

 深く深呼吸してから、暗証番号を入力する。「信頼」という無形の財産を評価して与えられた、ほんの数桁の番号。それが、どれだけ渇望しても私に与えられることは無かった知加子の全てを私にもたらす。

 ジーッ、と電気錠が反応し、ロックが解除される。

 暗い書庫に廊下の非常灯の白い光が一筋差し込むと、その瞬間、書庫の奥から知加子の声が響いた。
 「早くッ!・・・早く来てッ!、手が・・・手が痺れるの・・・、お願いだから早く!!」

 悲鳴が、書庫の中に満ち、そしてすぐに壁面全体で吸収されていく。叫んでも現れない助けを求めて、知加子は何回、こうやって叫んだのだろう。

 意識してゆっくりと、床に靴音を響かせつつ、一歩一歩、知加子に近づいていく。もちろん、書棚を1段ずらし、近づく姿を見せることはしない。

 「見えない方が、目で見えるものよりもはっきり見える時が、ありますよね・・・?知加子さん・・・」

 足を止め、低い声で、知加子に向かって問いかける。謎かけのような質問に答える余裕が、彼女にないことは十分に分かっている。

 「は・・・早くッ!!!早くッ・・・痛いっ・・・、痛いの・・・
!」

 「分かってますよ。助けてくれるのは私だけ、って、十分身に染みて分かってくれたなら・・・」

 「わ・・・、分かったわ・・・、怖かった・・・、不安で・・・このまま誰もこなかったら・・・って・・・、だから・・・、だからお願い、早く・・・これを・・・」

 書棚一段を隔てて、知加子が苦悶の表情を浮かべ、梁から吊られている。どこにも逃げられるはずはない。そして、誰にも邪魔されることはなく、時間はたっぷりある。圧倒的な優位性を保ったまま、私は、彼女へ、自分の本当の欲望を彼女に展開するかどうかを逡巡していた。

(そこまでやるか・・・、このまま・・・するのか・・・。それでいいのか・・・、それとも・・・?)

 チャンスは、二度とはない。どのみち、この後、知加子と以前のように普通の同僚としてつきあうことなどできはしないだろう。もちろん、外形的にはその関係が維持できたとしても、知加子自身は一生私を赦すはずはない。

(どのみち、もう戻れはしない。チャンスは、これしか無いんだ。これしか・・・)

 吊られた知加子と私を隔てた書棚の一番上に置いた箱を下ろし、プラスチックのケースを取り出し、丁寧にネットから取り出し、棚に置く。さらに、ジッパーを開ける音の後、何かを取り出し、スチールの書棚に並べる音が、続けて何度も知加子の耳に届く。

 「何を・・・何をしてるんです・・・」

 何も答えず、作業を続ける私のこめかみから、一筋の汗が流れ、手が小刻みに震えている。閉ざしてきた本当の闇への扉鍵を開ける決心に、どれだけ勇気がいるのかを、今まさに、私は実感していた。

 どれだけ優位な状況を作っていたとしても、思いのたけを焦がれた相手に伝える前に感じる不安と、それを打ち破るための勇気の重さに変わりはない。

 私は、女を縛って犯し、劣情を解放して満足するような、人間にあるまじき畜生だと、知加子には思われたくなかった。

 私は、どこまでも、知加子を求めて焦がれ続けた虜。

 書棚の向こうで苦しむ知加子が、そのことに気がつくかどうか、その時の私は、知るわけも無かった。 







コメント
この記事へのコメント
な、何をしようとしているのか想像が尽きません(><。)
気になって仕方がないじゃないですかっ!w
そう。。この「何か事を」実行するまでの、実行されるまでの恐怖感に魅了されたのです
視界を妨げられ、聴覚だけが研ぎ澄まされ、ご主人様の足音を聞くときのあの感覚を思い出しました

2006/05/30 (火) 10:35:21 | URL | こねこ #-[ 編集]
(*'‐'*) ウフフフ♪
 さっきのあの同じバックが・・・・。
でも、この方とっても珍しいパターンだと思います。
あらゆるジャンルに跨ってるって感じが・・・。
>こねこさん
続き、すごく楽しみですね。
2006/05/30 (火) 16:17:25 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
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