肩口を撫でるストレートの黒髪、うつむき加減の表情、自身なさげに背中を丸める仕草、そして、知らず知らず胸元をかばうように両手を組む様子、それは、知加子を印象づけるいくつかの象徴的な部分だった。
自分にこの苦痛を与えた紛れもない張本人が、自分の目の前にいる。しかも、その姿は、嫌悪感を催すほど自分の特徴を盗み、奇妙な裸身を目の前に晒している。
(な・・・、なん・・・なの・・・?何が目的なの・・・!)
知加子が混乱しないはずは無かった。
自分にこの苦痛を与えた紛れもない張本人が、自分の目の前にいる。しかも、その姿は、嫌悪感を催すほど自分の特徴を盗み、奇妙な裸身を目の前に晒している。
(な・・・、なん・・・なの・・・?何が目的なの・・・!)
知加子が混乱しないはずは無かった。
顔を半分近く隠した黒髪を右手で払いながら、伏せていた視線を一瞬上げ、知加子の身体を下からゆっくりと見上げていく。
毎日履き続けてストラップがゆるみ始めた黒革のサンダルの鈍い光りと、ライトベージュのストッキングに包まれた踵、足首、そしてふくらはぎから膝の裏へとつながる優美な丸みを帯びた曲線が放つ輝きとのコントラスト・・・、私は今まで、すれ違う度に何度その一つ一つを人知れず盗み見ていたことだろうか。
今や、知加子の全ては私の目の前に置かれた供物。いくら無遠慮に眺めていても、誰にも止められることはない。
私は視線の愛撫を止めることなく、柔らかな布地を中からふんわり胸元を隆起させている胸元の膨らみを視線で舐め、首筋に光る汗の雫を確認してから、鼻筋に視線を移動させていく。小刻みに震える身体は、天井から両手を吊られた姿勢がいかに苦しかったかを如実に示していた。
(苦しかっただろうに・・・、かわいそうな・・・私の、知加子・・・・)
なぜか、切ないまでに心臓を締め付けられるような感覚が私を襲う。
(今すぐ、抱きしめたい・・・、唇を奪い、その全てをこの手に・・・!)
身体の奥から、瞬時に身を焦がすほどの性衝動が沸き立つ。そして、知加子の苦痛を思って胸を締め付ける切ない苦しさが更にその性衝動を燻し、私は、後頭部のどこかが、鈍い音を立てて崩れていくような錯覚を感じていた。
ついに、知加子と目が合った。
困惑しきった表情で視線をそらす知加子の横顔を、黒髪が隠していく。
「知加子さん・・・、こっちを、向いて下さい・・・」
頬を撫でる髪の感触は、今知加子が感じているものと、きっと、同じはず、そう思うと、自分の頬をさらさらと音を立てて流れるストレートの髪が、堪らなく愛おしく思えた。
「嫌・・・ッ・・・、早く・・・早く・・・ほどいて下さい・・・、手が・・・ちぎれそうなんです・・・」
切迫する苦痛が、強く知加子を支配していた。
今まさに、自分の目の前に展開されているこの信じがたい現状を受け入れることよりも、苦痛からの解放を、知加子は願っている。
そのことが、私には許せなかった。
(体中の水分を、全てを・・・、身体から絞りだせ・・・っ!、身体隅々にまで・・・、狂おしい苦痛を・・・、もっと・・・、もっと・・・!)
明らかに女性のものではないぎらぎらとした性衝動が、鈍く、そしてべったりと私の瞳の色を変えていった。
(焦るな・・・!焦るな!!)
鼓動を早めるばかりの身体に、もう一人の自分が、躍起になってブレーキをかけ続ける。このままでは、荒々しく、性衝動を放出するまで女を貪り、精を浴びせてしまえば収束するだけの結果を招くことになる。
(欲しいのは、そんなものじゃない・・・)
下を向き、左右に顔を振り、一瞬だけ雑念を払うことに集中する。
数十秒、そのままの姿勢を保ち、顔を上げる。
急に静かになった私を怪訝そうに眺める知加子の目に、先ほどまでの、牡の性衝動の色が消え、代わりに冷たく燃える蒼白い炎に炙られた油のような、静かな熱情が込められ
た私の視線が映ったはずだった。
「ひ・・・いっ・・・いッ・・・!」
喉の奥から響くような悲鳴が、知加子から噴き上がった瞬間、私は、正面から知加子の首筋にしゃぶりついていた。
毎日履き続けてストラップがゆるみ始めた黒革のサンダルの鈍い光りと、ライトベージュのストッキングに包まれた踵、足首、そしてふくらはぎから膝の裏へとつながる優美な丸みを帯びた曲線が放つ輝きとのコントラスト・・・、私は今まで、すれ違う度に何度その一つ一つを人知れず盗み見ていたことだろうか。
今や、知加子の全ては私の目の前に置かれた供物。いくら無遠慮に眺めていても、誰にも止められることはない。
私は視線の愛撫を止めることなく、柔らかな布地を中からふんわり胸元を隆起させている胸元の膨らみを視線で舐め、首筋に光る汗の雫を確認してから、鼻筋に視線を移動させていく。小刻みに震える身体は、天井から両手を吊られた姿勢がいかに苦しかったかを如実に示していた。
(苦しかっただろうに・・・、かわいそうな・・・私の、知加子・・・・)
なぜか、切ないまでに心臓を締め付けられるような感覚が私を襲う。
(今すぐ、抱きしめたい・・・、唇を奪い、その全てをこの手に・・・!)
身体の奥から、瞬時に身を焦がすほどの性衝動が沸き立つ。そして、知加子の苦痛を思って胸を締め付ける切ない苦しさが更にその性衝動を燻し、私は、後頭部のどこかが、鈍い音を立てて崩れていくような錯覚を感じていた。
ついに、知加子と目が合った。
困惑しきった表情で視線をそらす知加子の横顔を、黒髪が隠していく。
「知加子さん・・・、こっちを、向いて下さい・・・」
頬を撫でる髪の感触は、今知加子が感じているものと、きっと、同じはず、そう思うと、自分の頬をさらさらと音を立てて流れるストレートの髪が、堪らなく愛おしく思えた。
「嫌・・・ッ・・・、早く・・・早く・・・ほどいて下さい・・・、手が・・・ちぎれそうなんです・・・」
切迫する苦痛が、強く知加子を支配していた。
今まさに、自分の目の前に展開されているこの信じがたい現状を受け入れることよりも、苦痛からの解放を、知加子は願っている。
そのことが、私には許せなかった。
(体中の水分を、全てを・・・、身体から絞りだせ・・・っ!、身体隅々にまで・・・、狂おしい苦痛を・・・、もっと・・・、もっと・・・!)
明らかに女性のものではないぎらぎらとした性衝動が、鈍く、そしてべったりと私の瞳の色を変えていった。
(焦るな・・・!焦るな!!)
鼓動を早めるばかりの身体に、もう一人の自分が、躍起になってブレーキをかけ続ける。このままでは、荒々しく、性衝動を放出するまで女を貪り、精を浴びせてしまえば収束するだけの結果を招くことになる。
(欲しいのは、そんなものじゃない・・・)
下を向き、左右に顔を振り、一瞬だけ雑念を払うことに集中する。
数十秒、そのままの姿勢を保ち、顔を上げる。
急に静かになった私を怪訝そうに眺める知加子の目に、先ほどまでの、牡の性衝動の色が消え、代わりに冷たく燃える蒼白い炎に炙られた油のような、静かな熱情が込められ
た私の視線が映ったはずだった。
「ひ・・・いっ・・・いッ・・・!」
喉の奥から響くような悲鳴が、知加子から噴き上がった瞬間、私は、正面から知加子の首筋にしゃぶりついていた。
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